【ゆっくり文庫】芥川龍之介「酒虫」 Shuchuu (1916) by Akutagawa Ryunosuke
2015年 ゆっくり文庫 ファンタジー 日本文学 芥川龍之介037 それは虫のしわざ──
大酒飲みだが酔うことのない富豪の劉氏。あるとき僧が訪れ、それは酒虫のしわざであり、退治したほうがよいと言われる。劉が承知すると、僧は不思議な儀式をはじめた。
原作について
芥川龍之介
(1892-1927)
私は本作を妖怪の話と思って読んだから、物足りないと感じた。しかし漫画『東方三月精』の第17,18話「壺中の虫 酒虫の壺」を読んだときに、自分が見落としたものに気がついた。あらためて読み直し、『聊斎志異』と比較することで、芥川龍之介の意図がわかった。
この気付きを伝えるべく、本作を【ゆっくり文庫】に加えることにした。
※「壺中の虫 酒虫の壺」酒虫の性質のみを描いたエピソードだった
悪癖を取り除くと、その人はその人でなくなる──。このテーマを描くため、芥川は酒虫の性質を省いた。劉氏はうかつな人物だが、決して愚鈍ではない。だれにでも起こりうる話。「酒虫(悪癖)を抜くべきじゃなかった」と断言しないところも謙虚だ。
あなたの悪癖は病気だから、治療したほうがいいと言われたら、どうするか?
お酒が好き、ゲームが好き、美少女フィギュアが好き、コスプレが好きといった悪癖は、なければない方がいいが、あとになにが残るだろう? いろいろ考えさせられる。
翻案について
展開を時系列順にもどし、さまざまな装飾を取っ払った。酒虫の描写も写真にまかせてカット。最初に仕上げた脚本よりだいぶ短くなった。
私がそうであったように、視聴者の多くは「妖怪の話」として見るかもしれない。僧侶陰謀説に走ってほしくないから、『聊齋志異』と比較して、テーマを解説する《おまけ》を追加した。文学的にはまったく蛇足であり、邪道であり、野暮だが、やってみよう。
※《おまけ》を入れるかどうかは悩んだ
僧侶陰謀説(=僧侶は自分が良酒を飲むため、劉氏から酒虫を抜いた)を読みたい人は、夢枕獏の「闇狩り師2」収蔵の「餓鬼魂」あたりがおすすめ。
配役について
酒飲み主人公は「黒猫」を受け継いで霊夢。
なので語りは魔理沙になった。魔理沙はまた主演が減っている。すまんなぁ。
旅の僧侶は悩んだ。立派で、威厳があって、ウソをつきそうにない人がいいが、面白味に欠けるため、胡散臭い人物にした。しかし邪悪であってはならない。試行錯誤してパチュリーに落ち着いた。魔法の触媒を探しに来たような雰囲気だ。
※旅の僧侶=ゆかり:コレじゃない
※旅の僧侶=レミリア:ちがう
※旅の僧侶=萃香:知らない人が多いだろうなぁ
東方ファンなら、当然、萃香が登場すると思うだろう。しかし【ゆっくり文庫】の視聴者の何割が伊吹萃香を知っていて、いつも持っている瓢箪(伊吹瓢)に酒虫がいると知っているだろう? マニア度数が高すぎる。絶好の配役だが、断念することにした。ご了承ください。
3人の村人はオリジナルキャストで、「常識」=きめぇ丸、「善意」=幽々子、「やっかみ」=アリスを暗示している。どの意見も無責任で、なんの役に立たないが、劉氏は踊らされてしまう。攻撃的だったアリスが正鵠を射ているのはシュールだ。
※常識、善意、やっかみ
動画制作について
酒虫をどう表現するかは悩んだ。ちまちまイラストを描いていたが、結局、エゾサンショウウオを赤くすることに落ち着いた。答えがわかっていれば、無駄な作業をセずに済んだのに。
※できてしまえば簡単な表現
最大の難関は《おまけ》だった。画面に情報がありすぎても、なさすぎても困る。解説動画は、ドラマとは違った難しさがある。このあたりのセンスも伸ばしたい。
深刻な素材不足
Microsoftのクリップアートサイトが閉鎖したことで、深刻な素材不足になっている。今回もツボが見つからず困った。結局、写真をくり抜くことで解決したが、できればVectorデータがいい。素材を探すのにかける時間が増えてきた。困った。もっと手抜きする方法を考えないと。
間隔が空いたこと
「酒虫」は短いので、適当なところに放り込むつもりだった。しかし前作から2ヶ月も空いてしまうと、「もっと大作を容易すべきじゃないか」とか「季節感がちがうぞ」とか、どうでもいいことに惑わされてしまった。
ミステリー大作が連続したから、「酒虫」のような作品は物足りないと思う人がいるかもしれないが、まぁ、このノリが【ゆっくり文庫】なのだ。やりたいことをやる。私がおもしろいと思ったことをやる。視聴者の期待を意識しても、いいことがないだろう。