【ゆっくり文庫】サキ「スレドニ・ヴァシュター」 Sredni Vashtar (1900) by Saki

2015年 ゆっくり文庫 イギリス文学 ドラマ ファンタジー
【ゆっくり文庫】サキ「スレドニ・ヴァシュター」
040 五分の五を奪われないために──

病弱な少年コンラディンの暮らしは、デ・ロップ夫人に支配されていた。コンラディンはこころの拠り所として、物置に空想の大聖堂を作った。

原作について

W.W.ジェイコブズ

サキ
(1870-1916)

 「翻案について」のコメントでサキを勧められ、読んでみた。私好みの作家だった。海外ではオー・ヘンリーに並び称される短編作家のようだが、日本での認知度は低い。もったいない。よって、【ゆっくり文庫】に加えることにした。
 今回は「スレドニ・ヴァシュター」を選んだ。

サキ「スレドニ・ヴァシュター」
※コメント

余談:甥っ子の話

 私の妹はシングルマザーで、息子(私にとって甥っ子)を育てているが、その教育方針は理不尽だ。子どもが夢中になるもの──iPad、動画サイト、ゲームなど──を次々に禁じてしまうからだ。そして習い事や宿題をたっぷり課すわけだが、できても褒めない。甥っ子は黙って従っているが、内部でなにかが煮えているような気がする。
 妹は話を聞かないので、動画で伝えよう。子どもは人形じゃない。

サキ「スレドニ・ヴァシュター」
※表情も支配されている

5分の5を支配されないために

 よく読むとコンラディンが置かれた状況は厳しい。
 コンラディンは、自分は余命5年と診断した医師を「ほとんど無能」と断じ、「あなたのため」と言いながら屈服させようとする伯母を憎んでいる。もし大人の言うことが正しいなら、コンラディンは5年で死んでしまう。だから逆らうしかないのだ。

 コンラディンは蒙昧ではない。アナバプティストを愛し、スレドニ・ヴァシュターを礼拝しても、それが動物でしかないことを理解している。しかしスレドニ・ヴァシュターが神ではなく、ただのイタチであると暴露されたとき、コンラディンの空想は崩れ去る。
 存在しないとわかっていても、祈らずにいられない。
 これこそ原初の礼拝だろう。

サキ「スレドニ・ヴァシュター」
※コンラディンは現実と空想の区別がついている

サキ「スレドニ・ヴァシュター」
※まこと神となった

悪魔的少年か?

 コンラディンが伯母を殺すためイタチを飼っていたわけではないだろうが、この結末をまったく予想(期待)していなかったとは思えない。ではコンラディンは、間接的に伯母を殺したのだろうか? 伯母が死ねば、生きるのに必要な5分の3を失ってしまうが、それでも逆らうしかなかったのか?

サキ「スレドニ・ヴァシュター」
※コンラディンは伯母の死を、バターを塗ったパンで祝うような悪魔的少年だろうか?

 私は、この物語全体が1つの「空想」だったと思う。いつでも殺せるが、見逃してやる──。そう思えばもう少しだけ、がまんできる。

 文中に、これが空想だったと示す根拠はない。しかし私は、コンラディンが悪魔的少年だったとは思えないし、思いたくない。【ゆっくり文庫】は妄想の発露だから、私が感じたものを表現したい。
 さりとて、ラストで無傷のデ・ロップ夫人が登場するのは興ざめだから、エンドロール後にシーンチェンジを挿入した。赤(空想)から白(現実)へ。気づく人は気づくだろう。

 うるさいメンドリを家の人に知られず飼えるのか? ケナガイタチにそこまでの殺傷力があるのか? といったツッコミも無粋だ。そういうことじゃない。

 空想オチというクッションを挟んだので、原作ではぼかされていた伯母の死を明言させた。また、伯母がコンラディンに気を使うシーンも省いた。原作を読めば、かなり翻案されていることがわかるだろう。でもたぶん、大事なところは外していないと思う。

動画制作について

 短いけど、手こずった。脚本のまま朗読させても全然ダメで、視覚的な演出が不可欠だった。しかし演出は制作途中に思いつくから、手直しがたいへんになる。私はテキストからすぐ動画制作に入ってしまうが、絵コンテを作るべきかもしれない。

 現実と空想の切り替えには、使い慣れたギザギザワイプを使った。これはYMMのオブジェクトだけで機能するから、Avi-Utlでの追加編集がいらない。まぁ、Avi-Utlには多数のシーンチェンジエフェクトがあるんだけど、どうにも手が出ない。

 現実の背景はモノクロ、空想はカラーにしてある。システィーナ礼拝堂の写真なども彩度を高めてある。私はこの色がつく演出が好きみたい。抽斗の中身が尽きつつある。

動物の擬人化

 動物をゆっくりキャラで表現することはすぐ決まった。31ヶ月前、「文鳥」で悩んだことが懐かしい。
 当初の配役は、アナバプティスト=メンドリ=夜雀=ミスティア・ローレライ、スレドニ・ヴァシュター=イタチ=白狼天狗=犬走椛だったが、東方ファンしか通じないと判断した。

 きめぇ丸とフランドールが配役されたのは、後ろ姿があったから。フランは結末を予感させてしまうかもしれないが、キャラクターを知る人なら「幽閉された破壊神」という妙を察してくれるだろう。

ゆっくりフラン
※フランの追加表情

ゆっくりアリス
※上海の追加表情

雑記

 檻は、PAYDAY2の勾留アイコンを模した。別の動画のため作った素材だが、使い勝手がいい。見ればすぐ作れる簡単なものだが、これにしようと思いつくまでが大変だった。

 音楽は「Avalon」のサントラから4曲お借りした。仮想空間への「Log in」、隠し要素を探す「Nine Sisters」は、うまく組み込めたと思う。テーマが合致すると、音楽の効果も高まる。
 音量調節が難しい。スピーカーで聞く人が多いなら、音楽は少し大きめがいいのだろうか?

 それから魔理沙の出番がだいぶ減っている。申し訳ない。

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