【ゆっくり文庫】コナン・ドイル「空き家の冒険」シャーロック・ホームズの帰還 The Adventure of the Empty House (1903) by Arthur Conan Doyle
2015年 ゆっくり文庫 イギリス文学 ホームズ ミステリー
047 英雄たちの帰還──
孤独に暮らすワトソンのもとに、アイリーン・アドラーがやってきた。ホームズはモリアーティ教授の遺産を追っていて、協力してほしいと言う。
ゆっくりホームズの帰還
ゆっくりホームズは「最後の事件」で完結したが、「踊る人形」と「犯人は2人」の脚本が宙に浮いてしまった。このまま死蔵するのは惜しいので、再始動することにした。まぁ、復活してこそホームズであろう。
そのためには「空き家の冒険」を避けて通れないが、ホームズ生存の真相は「最後の事件:ホームズ視点」やってしまったし、アデア卿殺害事件はあまり魅力的じゃない。どうしようかと思ったが、例によって妄想で乗り切ることにした。
ちなみに完成したのは6月。サキ「スレドニ・ヴァシュター」に登場する檻は、本作のために作ったものだ。まさか半年も公開が伸びるとは思わなかった。
原作について

アーサー・コナン・ドイル
(1859-1930)
ホームズはバリツ(日本の武術)によって、ライヘンバッハの滝から生還した。モリアーティ教授の部下たちによる報復が予想されるため、自分の死を偽装し、世界各地を放浪した。
3年後、危険な敵はモラン大佐を残すのみとなった。やがて「アデア卿殺害事件」が起こると、ホームズはモラン大佐を逮捕するチャンスとみてイギリスに帰還する。ベーカー街221Bはモラン大佐の部下に監視されていたが、ホームズは罠を仕掛けてモラン大佐を逮捕した。こうしてホームズはロンドンにて探偵業を再開するのだった。
いい加減な話である──。モラン大佐の部下がずっとベーカー街221Bを監視しているなんて不自然だし、いつ来るかわからないモラン大佐をピンポイントで迎撃できたのも出来過ぎだ。警察にマークされているモラン大佐がカード賭博でイカサマして、みずから邪魔者を始末するのもチープだ。ホームズも、そんなモラン大佐の犯罪を待っていたなんて、気が長すぎる。
まぁ、細かく説明してもテンポが悪くなるから、これはこれで正解なんだろうな。
翻案について
「教授の遺産」というプロットを加えることで、いろいろスジが通った。ホームズの陰謀で善良な青年(アデア卿)が殺されるのはまずいから、アイリーンを前面に立たせる。正直、アイリーンがこんな活躍をするとは思わなかった。
下記が本件の真相である。どこまで読めただろうか?
- ホームズは「教授の遺産」を分解・除去するため、自分の生存を伏せておいた。
- 「遺産」を失ったことでモラン大佐は困窮し、カード賭博に手を出した。
- モラン大佐はモリアーティ教授を崇拝していた。
- 空気銃の性能を知っているホームズは、石膏像を用意し、対決に備えた(先月)。
- アイリーンは、ホームズが帰国する前にモラン大佐を始末しようと考える(先週)。
- 「ホームズ生存」の情報で揺さぶりをかけるが、モラン大佐はアデア卿を射殺してしまう。
- 驚いたホームズはアイリーンの計画(伯爵による謀殺)を破棄。アイリーン激怒。大げんか。
- ワトソンを巻き込んだ新計画(法に則った逮捕)を立て、ホームズが帰国する(おととい)。
- モラン大佐の部下がホームズ(アイリーンの変装)を見つけ、尾行する(今朝)。
- ホームズ(アイリーン)がメイノース伯爵と面会したことで、モラン大佐は焦る(実際には会ってない)。
- 夕方、ホームズ(アイリーン)がワトソンとベーカー街に向かったので、すぐ出発する。
- ホームズの予見どおり、ワトソンは迷わなかったため、アイリーンは降参する(パートナーの座をゆずる)。
- モラン大佐はアデア卿殺害の罪で逮捕された。ホームズのアリバイは完璧なので、モラン大佐がモリアーティ教授の真意を訴えても、だれも相手にしない。社会的な口封じに成功する。
- マフィンはホームズを使ってモラン大佐を逮捕し、物理的に口封じする。
- 世は並べて事も無し。
※事件の全体像
ホームズとワトソンの再会
「空き家の冒険」最大の見せ場は、変装を解いたホームズを見てワトソンが失神するシーンだろう。しかし【ゆっくり文庫】のワトソンは真相を知っているし、アイリーンが中古本屋に化けると尾行者が見失うため、盛り込めなかった。つらいけど、やむを得ない。期待していた方、すみません。
※グラナダTV「空き家の冒険」での再会シーン
セバスチャン・モラン大佐
ホームズ曰く「ロンドンで2番目に危険な男」らしいが、正典の描写を見るかぎり、あまり賢くない。カッとなって人を殺しちゃうところは危険か。こんな男がモリアーティの右腕とは思えないが、空気銃がもたらす緊張感はすさまじい。モリアーティ教授の足りないところを補完しており、いいキャラクターだ。私はモラン大佐より古いスナイパーキャラクターを知らない。
映像化作品ではエレメンタリー版の殺人鬼モランが印象的だった。レギュラーになってほしかった。ガイ・リッチーの映画は、言われるまでモラン大佐とわからなかった。
※セバスチャン・モラン4種:正典挿絵、グラナダTV版、ガイ・リッチー版、エレメンタリー版
【ゆっくり文庫】のモラン大佐(八雲藍)は、あわれな男である。モリアーティ教授(八雲紫)に尽くしたが、教授の興味はホームズ(霊夢)とマフィン(橙)に注がれた。藍はハマリ役だった。
※便宜上「遺産」と呼ぶが、モリアーティ教授が望んで託したものではない。教授が遺したものはマフィンだけだ。
※真・Mの後継者。
アイリーンという女
【ゆっくり文庫】のアイリーン(早苗)は、賢いストーカーである。ホームズのためなら、なんだってする。ホームズはアイリーンと3年暮らしたが、仕事のパートナーはワトソンを選んだ。愛情がないわけではなく、「それはそれ、これはこれ」なのだ。笑って話しているが、ひとつ間違えばワトソンは殺されていたと思う。
※アイリーン・アドラー:美しく、賢く、敵味方があいまいな女
※アイリーンは嘘を言ってない。
※笑って済ませられる話じゃない。
※ぶっちゃけ、ワトソンが消される可能性もあったのでは?
ふたたびの共同生活
彼の求めに応じて私は診療所を売り払い、以前のベーカー街の住居に戻って同居していた。ケンジントンにある私の小さな診療所を買いとったのは、バーナーという名の若い医者だった。彼は、私があえてふっかけてみた高い値段を驚くほど躊躇なく受け入れた。数年後、ある出来事で初めてその理由が判明した。バーナーはホームズの遠い親戚で、その費用を実際に都合したのはホームズだったのだ。
「ノーウッドの建築業者」より
「ノーウッドの建築業者」で語られる公式設定である。《おまけ》として組み込んだ。ちょっと考えると首を傾げるようなところが、おもしろいのだ。
※ノーウッドの建築業者より。
ハドソン夫人
ハドソン夫人といえばアニメ『名探偵ホームズ』のマリー・ハドソンを思い出す。19歳の美少女で、未亡人で、家事・運転・射撃・アクションの才能があって、誰からも愛されるという、脅威のチートキャラクターだった。
『Sherlock』のハドソン夫人は現実的で、ユーモラスだった。それを参考に【ゆっくり文庫】では、「目立たないけど、危険な人」という方向で描いている。ハドソン夫人の正体やホームズとの出会いなども描きたいが、正典から外れたくない。悩ましいところだ。
ハドソン夫人はモラン大佐が逮捕時に「にやり」と笑う。お気に入りのシーンだ。
※ハドソン夫人4種:グラナダTV版、アニメ版、Sherlock版、人形劇版
※ホームズ抜きでも楽しい。
動画制作について
特別な技工は凝らしてないが、いくつか工夫したところはある。
1つは実績解除だが、2つ目をまちがえてしまった。投稿した動画は差し替えられないから、くやしい。訂正版をどっかにアップロードしたくなった。
※実績解除:ワトソンの帰還、ホームズの帰還、共同生活の開始、マフィンの活動再開
つまらないことだが、「連行されるシーン」に悩まされた。ゆっくりは手がないから、「手錠をつけたまま退場する」ことができない。ふつうの退場と区別するため、ぴちゅーん音を鳴らすことにした。東方ファンでないと意味が通じないが、よりよいアイデアが浮かぶまで使おう。
※手錠を表現できない
余談だが、「ちくせう」はからあげ太郎さんの【東方漫画】カレーのおじょうさまより拝借している。わかる人、いるだろうか?
さらに余談。マープルとルーシーの関係は、【東方絵本】Little Blossomにインスパイアされている。
グラフィック追加
さなえの鹿撃ち帽バージョンは説明済み。ほかに、すわこが追加された。輪郭を再調整して、幼い印象を強めている。怪しさを演出すべく、「うつむき」も作った。けっこう手間がかかったけど、また使うことがあるだろうか?
謎のメイド(すわこ)は「ボヘミアの醜聞」に登場したメイドと同一人物で、現在もアイリーンに従っている。ベーカー・ストリート・イレギュラーズの活躍も描きたいね。
※【ゆっくり文庫】版すわこ
雑記
今回はいつにもましてオリジナル色が強い翻案になった。でしゃばるアイリーンに鼻白むコメントも散見されるが、まぁ、彼女はこの事件をもって裏方に回るから、ご容赦されたし。
それにつけても実績解除の画像を間違えたのは悔やまれる。何度もチェックしたのに、見つけられなかった。