創作  2016年04月18日(月)に書いた ゆっくり文庫

【ゆっくり文庫】イギリスの民話「トム・チット・トット」

【ゆっくり文庫】イギリスの民話「トム・チット・トット」

ちぐはぐな童話──

*** コメント待ってます ***

原作について

ジョセフ・ジェイコブズ

ジョセフ・ジェイコブズ
(1854-1916)

 「トム・チット・トット」は民話なので、原作者不明である。民俗学者ジョセフ・ジェイコブズが「English Fairy Tales」(1890)で紹介しているが、ちぐはぐな童話として紹介したかったので原作者としてクレジットしなかった。
 原文(英語)はオンラインで読めるが、原文に忠実な日本語訳は見当たらなかった。

 「トム・チット・トット」の名をはじめて見たのは岡崎二郎著「アフター0」の「契約」というエピソードだった。悪魔の名前をフェアに隠すアイデアが秀逸だった。

岡崎二郎著「アフター0」
※「契約」 岡崎二郎「アフター0」より

ちぐはぐな童話

 「悪魔の名前を当てる話」は世界各地にあって、その代表例はグリム童話の「ルンペルシュティルツヒェン」だが、私は「トム・チット・トット」の脳天気さを気に入っている。
 ほかの物語と比べると、ちぐはぐさが浮かび上がる。

ルンペルシュティルツヒェン(ドイツ)

ルンペルシュティルツヒェン

※ルンペルシュティルツヒェン

 貧しい粉ひき(父親)が、「娘は藁を紡いで金に変えられる」とうそをつく。興味を持った王様が娘を召し上げ、「三日以内に金を紡ぐことができたら王妃とするが、できなければ殺す」と言い出す。困り果てた娘に、小人が取引をもちかける。娘はネックレス、指輪を差し出すが、三日の対価がなかったため、最初に産まれる子どもを引き換えにすることになる。

 王妃となった娘が身ごもると、小人が赤ん坊を奪いにやってくる。王妃に懇願された小人は、「三日以内に自分の名前を当てられたら赤ん坊を連れて行かない」と約束する。王妃は国中の名前を集めるが、小人の名前は見つからない。すると王様が森で小人の歌を聞いたといい、名前(ルンペルシュティルツヒェン)が判明する。名前を言い当てられたルンペルシュティルツヒェンは怒り狂い、自分で自分を引き裂いてしまう。

大工と鬼六(日本)

 腕のいい大工が、流れの早い川に橋を架けてほしいと頼まれる。川をながめて考えていると、鬼があらわれて、目玉をよこせば立派な橋を架けてやると言う。鬼は2日で橋を完成させてしまった。困り果てた大工が家に帰ると、おかみさんの子守唄で鬼の名前(鬼六)が判明する。名前を当てられた鬼六は姿を消し、どんな大雨でも流されない立派な橋が残された。

大工と鬼六
※だいくとおにろく [松居直×赤羽 末吉]

巨人フィンの伝説(スウェーデン)

 神父がルンド大聖堂の建築に難儀していると、通りかかったトロールが手伝ってくれた。しかしトロールは教会が完成したとき、神父の心と目をよこせと要求する。困り果てた神父は、丘で女性が歌う歌からトロールの名前(フィン)を知る。名前を当てられたフィンは怒って柱を壊そうとするが、そのまま石になってしまった。
 いまでもルンド大聖堂の地下室には、柱と一体化したフィンの石像がある。

ルンド大聖堂

※ルンド大聖堂 (Lunds domkyrka)

地下室にある巨人フィンの柱

※地下室にある巨人フィンの柱

意図せぬおもしろさ

 おわかりいただけただろうか?
 この物語の骨子は「悪魔に難題を解決してもらうが、名前を当てることで対価を払わずに済んだ」であるが、主人公の正当性を強調すべく下記の演出がかけられている。

  1. やむにやまれぬ事情だった。
  2. 対価が過大だった。
  3. 自分の利得のためではない。

 しかるに「トム・チット・トット」の娘(と母親)は、後先考えずウソを並べ、自分に惚れてる悪魔を利用するだけ利用して、切り捨て、うまうま王妃の座を手に入れている。最終日にわざと2回まちがえるところさえ、ふてぶてしく見える。「ルンペルシュティルツヒェン」を再話したと思われるが、童話としての完成度は低いと言わざるをえない。

トム・チット・トット
※トム・チット・トット - 悪いのは娘だろJK

 ところが見方を変えると、馬鹿な娘のサクセス・ストーリーになる。他人の労働成果をちゃっかり奪って悪びれない姿は、イギリス外交を彷彿させる。もちろん民話1つでイギリスの国民性を揶揄するつもりはない。あまり深く考えないように。

翻案について

 いつものことだが独自の翻案を加えている。

  • 綛(かせ)の説明を挿入。
  • 王様が娘をめとったのは「働ける王妃」が必要だったから。
  • 王様は昼、悪魔は夜にやってくると整理した。
  • 試練中の食糧の問題を無視した。
  • 最終日の前日の回答(Nicodemus、Sammle、Methusalem)をカット。
  • 王様と娘は宮殿で食事させた。
  • 日に五かさ紡ぐ試練は今回のみ。

 【ゆっくり文庫】では娘をひたすら脳天気に、傲慢に描いた。悪魔を働かせてテレビを観たり、最後まで糸車をまわさなかったり。しかし憎たらしい印象にしたくなかったので、オムライスを食べて「愛してます」と叫ぶシーンを加えた。
 童話でありながら、善悪がはっきりしない。
 「なんか変だぞ?」「これでいいの?」と感じてくれれば幸いだ。

トム・チット・トット
※食いしん坊と後先考えないところは母親からの遺伝だろう

トム・チット・トット
※ちょっと怖いメイド

はじめての幻想郷

 きつね面の霊夢が解説すると正解っぽくなるので、幻想郷のシーンを前後に挿入して、劇中劇という構図にした。【ゆっくり文庫】で幻想郷が描かれるのは初の試み。東方Projectを知らない人は、なぜチルノが凍ったカエルを、なぜ幽々子が扇子を持っているのか、わからないだろう。
 「らしくない」と叱る人がいるかもしれないが、たまにはアリだろう。

 そしてアリスである。
 初稿ではセリフがなかったが、魔理沙といっしょに解説役をしてもらった。悪役でない、「素」のアリスを描けたと思う。

 【ゆっくり文庫】は東方Projectを知らない人に「アリス=悪人」というイメージを植え付けてしまったかもしれないが、アリスは悪役を演じているのだ。アリスは悪役ばっかり演じることに不満もあるが、出演回数が増えるので、複雑な気持ちで引き受けている...と思ってほしい。
 ちなみに番外編「表現について」の挨拶では、チルノに悪役ばっかりとからかわれて怒るが、カメラが回っていることに気づいて赤面している。

 きめぇ丸は東方Projectのキャラクターじゃないので外すか、射命丸文を代用させるつもりだったが、そのまま出演してもらった。みんなで話をしたら楽しそうだが、長くなるので解散させた。

 チルノは馬鹿だが、馬鹿じゃない(と私は思う)。なので「トム・チット・トット」の疑問点に踏み込んでもらった。投げ捨てた台本(仕事)をふたたび手にするのは、やれることはやっておこうと言う謙虚さ。真の馬鹿(村の娘)とはちがう。

トム・チット・トット
※悪魔が来ても来なくてもいいようにする

動画制作について

 Minecraftで背景(ロケ地)を建築したが、ニコニ・コモンズに背景素材があったので借用した。背景素材はすべてのシーンが揃わないと使えない。今回は娘が閉じ込められる部屋に詰まったが、夢殿大祀廟で代用した。
 最終形がわかっていれば、借りて貼るだけの簡単なお仕事だ。
 くそっ、Minecraftの建築が無駄になった!

トム・チット・トット
※娘が閉じ込められる部屋

トム・チット・トット
※足りないアイテムは自作した

 わかりにくかった時間経過を昼=王様、夜=悪魔と整理した。娘が外部の男と密通している暗示ではないが、そう解釈しても差し支えない。時間経過を示したいが、背景画像の加工は難しいため、右上にシンボルを追加した。初稿はテキストだったが、グラフィックの方がわかりやすい。

トム・チット・トット
※窓から見える昼と夜

 娘が糸車(労働)に手を出さないことを示すため、少しずつ糸車を画面隅に追いやった。大事なのは労働じゃなく、権利をコントロールすることだった!!

トム・チット・トット
※糸車は隅っこへ

 食いしん坊を強調すべく、料理や食べる音、口などを工夫した。チルノの「もぐもぐ」は銀河鉄道の夜で追加されたものの流用。きめぇ丸の「もぐもぐ」は別の動画のため制作されたものだったが、例によって発表の順序が変わった。

トム・チット・トット
※きめぇ丸の「もぐもぐ」

雑記

 【ゆっくり文庫】は泣ける、というツイートやコメントをもらったので、泣けない動画を作ることにした。泣きたい人には拍子抜けかもしれないが、私はこういうのも好きなのだ。

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