創作  2016年07月30日(土)に書いた ゆっくり文庫

【ゆっくり文庫】フランスの民話「美女と野獣」

【ゆっくり文庫】フランスの民話「美女と野獣」

お父さん視点でどうぞ──

原作について

ウォルター・クレインによる挿絵(1874)

ウォルター・クレインによる挿絵(1874)

「美女と野獣」と言えばディズニー・アニメが有名だが、記憶していた内容と違っていたので驚いた。調べてみると、もともとはフランスの民話だった。最初に書き起こしたのはヴィルヌーヴ夫人(1740年)で、ボーモン夫人が短縮したものを出版し(1756年)、これが広く読まれるようになった。
民話だから、どれが正しいか論じても意味はない。しかも映像化されるたび異なる翻案が加えられており、比べてみるとおもしろい。

上記の作者名はヴィルヌーヴ夫人とあるが、内容はボーモン版に近い。【ゆっくり文庫】はこれを参考にしているが、ヴィルヌーヴ版ともボーモン版とも言えないため、作者名は省略した。

1740年 ヴィルヌーヴ版

基本形。美女と王子の背景が詳細に描かれている。

1756年 ボーモン版

ヴィルヌーヴ版の話の最後に王子を野獣に変えた妖女が再登場し、意地悪な二人の姉を石に変えるくだりが追加されている。三人の兄は兵役のため登場しない。

1946年 美女と野獣 (ジャン・コクトー監督版)

モノクロ。兄の友人は、御殿の財宝を盗もうとしたことで呪われ、野獣となる。一方、野獣はベルの愛を得て人間にもどるが、その顔や姿は兄の友人と同じだった。ベルはハンサムな顔とやさしい心をミックスした王子とともに、王国に飛んで行く。なかなかシュール。

1950年 赤い花 (ソビエトのアニメ映画)

ソビエトで制作された「美女と野獣」を下敷きとするアニメ映画。父親が破産しないこと、御殿が異国の島にあって、指輪の力で往来すること、赤い花によって呪いが解けるなど、ヴィルヌーヴ版、ボーモン版とも異なる。野獣は飛び抜けた不気味だが、飛び抜けて親切。お父さんもかっこいい。

1991年 美女と野獣 (ディズニーのアニメ映画)

ボーモン版を原作とするが、まったく別物。ベルは聡明な女性で、野獣の本心をすぐ見ぬいてしまう。なので臆病な野獣が愛を受け入れられるかどうかがテーマとなる。タイミリミットを知らせる薔薇が印象的。

1993年 美女と野獣 (ミュージカル)

ディズニーのアニメ映画を原作とするミュージカル。ストーリーもほぼ同じ。

2009年 美女&野獣 (オーストラリアのアクション映画)

魔女の呪いで野獣に生まれてしまった王子を軸に、美女と魔女が戦う。語ることなし。

2014年 美女と野獣 (フランスの実写映画)

ヴィルヌーヴ版を原作にしている。父親が破産した経緯が詳細に描かれるが、まったく不要。王子は婚約者(黄金の雌鹿)を殺してしまったことで神の怒りを受け、野獣になった。しかし婚約者への想いが残っているため、ベルの存在が浮いている。

2017年 美女と野獣 (ディズニーアニメの実写版)

そんなものがあると知って、【ゆっくり文庫】版の制作を急いだ次第。

翻案について

「美女と野獣」のテーマは「外見に惑わされず、やさしい本心を見抜く大切さ」だが、私は「無垢な少女が愛を知って、妻になる物語」だと思う。

スタート時のベルは屈託ない善人だ。父親の身代わりになることを厭わず、野獣におびえながらも媚びたりしない。死ぬことをなんとも思ってない。しかし野獣に告白し、妻になったベルは、もう以前のように自分を粗末に扱えないだろう。愛する人(野獣)の自傷によって悲しんだベルは、同じ悲しみを野獣に与えたりしない。野獣も同じ。愛とは、自分が自分だけのものでなくなること。こうした機微を描いてみたい。

ふと、お父さん視点にすることを思いつく。お父さんは物語の最初から登場するし、ベルと野獣の欠落を一歩離れたところから観測できる。あわせて下記2点の方向性が決まった。

1.事情を説明しない

ぶっちゃけ野獣は野獣のままでいいと思うが、それじゃ納得できない人も多いだろう。なので人間の姿にもどすが、顔は見せず、野獣になった経緯は説明しないことにした。ベルは野獣の心を愛したのだから、人間の姿に戻れなくても、王国の迎えが来なくても、まったく気にしないだろう。それは瑣末なことです。

【ゆっくり文庫】フランスの民話「美女と野獣」
※王子は最後まで顔を見せない(橙の後ろ姿は頭頂部しか作ってない)

【ゆっくり文庫】フランスの民話「美女と野獣」
※野獣はずっと独りで食事をしてきたが、ベルとの時間を経て、もう独りに戻れなくなった

2.長女と次女を罰しない

美女と野獣の幸福に、意地悪な姉たちの不幸はまったく必要でない。そもそも血を分けた姉妹が苦しむところを見て喜んじゃ駄目だ。お父さん視点で見ればなおさら。よって姉たちが意地悪になったのは貧乏になってからと設定し、ビンタで赦してやった。「そんなんじゃ腐った性根は治らない」といったコメントが予想されるが、長女と次女は結婚したのだから、お父さんが心配することでもない。
やたら人を罰したがるコメントがあるけど、だれかを苦しめるより、自分の幸せを探したほうがいいと思うよ。

【ゆっくり文庫】フランスの民話「美女と野獣」
※貧乏と嫉妬。姉たちにも言い分があるだろうさ。

【ゆっくり文庫】フランスの民話「美女と野獣」
※憎たらしくても、身内は身内

3人の息子は割愛。さしたる役回りもないし、「野獣の財宝を奪う」とか考えないでほしいからね。娘が馬に乗るシーンを省くため、魔法の指輪で往来させた。姉たちが指輪を切っちゃうのはオリジナル翻案だけど、いい試練になったし、クライマックスにお父さんが居合わせる理由になった。
それからベルが、自分の身勝手でお父さんが死にかけても笑顔だが、野獣が身勝手に死にそうになると大泣きしたのも対比関係にある。

【ゆっくり文庫】フランスの民話「美女と野獣」
※Jack 'o' Lantern は野獣が置き、End Rod は御殿が置いている。御殿が野獣の危機を知らせている。

野獣と御殿は入れ子になっている。王子は野獣の身体と魔法の御殿に閉じ込められているのではなく、閉じこもっているのだ。野獣は他者を拒絶しながら、あわれな商人を捨て置けなかった。また自分の呪いを解くためベルを利用しようと思ったが、強制できなかった。そんな野獣が人事不省のさいは、御殿がベルたちを導いた。御殿もまた野獣を大切に思っていたのだ。

かくして脚本は完成したが、動画制作はいつも以上に難航した。

動画制作について

まずキャスティングについて。当初の予定ではベル(チルノ)&野獣(きめぇ丸)だったが、違和感があったため見送られた。あれこれ試してベル(早苗)&野獣(霊夢)に落ち着く。霖之助も最終候補に残っていたが、後ろ姿がないので脱落した。


※「トム・チット・トット」でチルノが読む台本が「美女と野獣」だったが、公開直前で差し替えた

野獣の顔

野獣の顔をどう表現するかは最初の難問だった。自分で絵を描いたり、ディズニーキャラを借りてみたが、結局「PAYDAY2」のマスク(The Horned Beast)を流用することにした。「PAYDAY2」には多種多様なマスクがあって、より適切なマスクもありそうだが、過激すぎず、ふざけすぎず、このあたりが妥当と判断した。
それから表情を出すため、目を描画した。通常のまばたきと細目、目をつむった状態の3つだが、そこそこ気持ちが伝えられたと思う。

ゆっくり野獣
※ゆっくり野獣

PAYDAY2 The Horned Beast
※もともとはPAYDAY2のマスク

ビンタされる長女と次女

長女と次女がビンタされるシーンは絆創膏で足りるが、インパクトを出すため自作した。上海人形はビンタできないので絆創膏にしている。このシーン、よく見ると長女と次女は野獣の悪口を言ってないんだけど、そんなことは関係ない。長女と次女のショックと反省を示すため、暗転をわずかに遅らせている。

ビンタされた長女と次女
※ビンタされた長女と次女

Minecraftで背景を作る

番外編「表現について」で述べたように、私は【ゆっくり文庫】のまえにマイクラ動画を作ろうとしていて、その候補の1つに「美女と野獣」があった。なので数年前からロケ地を作っていたけど、完成しないまま放置していた。このたび脚本ができて、仮組み動画を作ってからロケ地を仕上げていったが、めちゃくちゃ手間がかかった

写真ならあきらめるが、Minecraftだとあれこれ調整できちゃうから、作業が終わらないのよね。御殿と森は雪バージョンと通常バージョンがあるんだけど、修正点が見つかると両方に作業しなくちゃならない。また苦労して作ったのに撮影されなかった「ベルの部屋」、暖炉から延焼して燃え落ちた「商人の家」、うっかりデータを削除してしまった「薔薇園」など、無駄な苦労も多かった。手順が洗練されてない。

御殿の玄関
※何度も作り変えた御殿の玄関

ベルの部屋
※使われなかったベルの部屋

荒廃した御殿
※荒廃した御殿は画像処理にした

雪の夜→商人が灯りに導かれて御殿を見つける→ドアを開けて玄関→食堂→客間までの流れは動画にするつもりだったが、べらぼうな手間がかかったのでやめた(あきらめた)。サーバを公開して、何人かプレイヤーに役を演じてもらって、マイクラ動画にしたらおもしろそうだが、私の技術力ではここが限界だ。

雑記:これ、おもしろいか?

作業中は40分を越える大作になると思っていたが、つなげてみたら17分──平均的な長さに収まった。しかし何度も見直すうち、おもしろくないように思えてきた。テンポが悪いような、まとまりがないような、当たり前すぎるような......? おもしろくなければ容赦なくボツにしてきたが、おもしろいかどうか、自分で判断できなくなった。こういうとき、相談できる相方がいないのは寂しい。
これ以上苦しみたくないので、公開する。どんな反響があるだろうか。

本作は構想から公開まで4年余りかかった。少しずつアイデアを練り込んで、素材を集め、加工してきたが、組み立ては決して簡単じゃなかった。ぱっと思いついて、ぱぱっと作れるシリーズじゃないが、あんまり時間をかけても駄目だ。頭がおかしくなっちゃう。

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