【ゆっくり文庫】日本の民話「猫岳の猫」 Cats on Mount Nekodake from Old Tales of Japan

2020年 ゆっくり文庫 ファンタジー 日本の民話 日本文学
【ゆっくり文庫】日本の民話「猫岳の猫」
097 猫には猫の世界がある──

熊本県の民話。阿蘇のふもとで道に迷った若者が、大きな屋敷で一夜の宿を借りる。そこは猫の棟梁が住まう猫屋敷だった。

原拠について

ショーン・コネリー (1930-2020)

「榊原家の化け猫」
与謝蕪村画『蕪村妖怪絵巻』より
(1754年頃)

 熊本県にある根子岳は、阿蘇五岳のひとつ。頂の形からその名がついた。名がつくと、それにまつわる伝承が生じる。

(参考)ヤマネコ山遊記:猫と縁のある山

猫岳の猫伝説

  • 猫岳には猫の棟梁(王様)が住んでいる(ゆえに猫岳と名付けられた)。
  • 猫の棟梁が猫屋敷をかまえている。
  • 除夜、あるいは節分の夜に猫が集まって、会議を開く。
  • 肥後の猫たちは必ずここで修業をする。これを「猫岳参り」と称する。
  • 修行した猫は出世して化けるようになったり、障子を開け閉めできるようになる。里に戻ると猫の棟梁になる。修行の印として耳が裂けることがある。
  • 猫屋敷に迷い込んだ旅人は、下働きの猫に変えられる。

 飼い猫が数日から数ヶ月いなくなって、戻ってくると、「こいつ、猫岳参りしてきたな」と言われるらしい。猫が超常の力を手に入れても追い出さないところがいいね。近ごろの猫は密閉された室内で飼われているから、修行に行くのも大変だろう

まんが日本昔ばなし

 二度制作されている。内容は同じ。
 助けてくれるのが飼い猫でないこと、旅人が無傷で帰れなかったところがおもしろい。猫が人間を猫にしたがるのは、人間が猫を人間にしたがることの裏返しにも思える。

No.0179 猫岳の猫(1977年)

No.0179 猫岳の猫(1977年)

No.1319 ねこ岳の怪(1992年)

No.1319 ねこ岳の怪(1992年)

No.0867 猫山の話(1986年)

No.0867 猫山の話(1986年)

 類話。いなくなった飼い猫を探して、猫山にやってきた女。そこは猫屋敷で、自分を食べようとしていることがわかる。飼い猫が逃げるように案内し、お守りをくれる。猫たちが行く手を阻んだが、お守りをかざすと散っていった。家に帰ってお守りを開くと、小判をくわえた犬の絵が描かれていた。その小判が実体になったことで、女は年季奉公を終えて、故郷に帰った。

きっかけ

 7月に筋之助さんと日本民話について話したとき、「作るのが難しそうなエピソード」として『猫岳の猫』の名前が挙がった。その後、ゲームウォッチ風画面を思いつき、勢いで完成させた。8月5日だった。

 単品で投稿するのは物足りない。『茂吉の猫』とセットにしようと思ったが、共通するメッセージが弱かった。

 筋之助さんが猫山の伝承を調べ、文庫サーバのメンバーに猫の伝承や思い出を聞いて回ってくれた。調査や雑談はおもしろかったが、動画にするような内容じゃない。『猫岳の猫』からも離れてしまった。

 妙案が出なかったので、単品投稿することにした。一発ネタみたいな作風だから、これはこれでいっか。

猫岳の猫
※猫山の地図を作ろうとしたが、定義できず断念。

コメンタリー

 人間の若者を橙、猫女中を八雲藍、という組み合わせがまず思い浮かんだ。女将たちは貫禄重視で五大老とする。このくらいなら東方を知らなくても楽しめるだろう。
 動画が完成してから、キャラ素材をいじりはじめた。今回はタイムラインを組むより、キャラ素材の加工に時間がかかった

序盤

 一番むずかしい「水かけシーン」から作りはじめ、追跡シーン、女中さんとの会話シーンと広げていった。なので序盤は最後に作った。
 猫はMinecraftから拝借。若者に風呂敷を背負わせる。それっぽい。

猫岳の猫
※猫に囲まれてびびる橙

 初号はいつもの藍で作成。ふと、結末の変化を示すため、橙から帽子と耳と尻尾を取り除いた人間態を作ろうと思い立つ。ちくちく調整して、パーツ分解する。髪の毛を荒立て、少年っぽさを強調する。尻尾が大変だった。耳のない帽子は八雲紫のZUN帽をカスタマイズした。口や目の位置も調整した。ふー。

文庫式:橙
※ちぇん

猫屋敷

 『まんが日本昔ばなし』のように、こわい絵柄は使えない。なので間とか、登退場とか、色合いで「こわさ」を演出する。暗がりは図形と単色化を使っている。怪談やホラー映画「あるある」の演出ばかりだけど、ゆっくりでやると新鮮だ。

猫岳の猫
※きしむ床はあとでまた出てくる。

猫岳の猫
※飛んで火に入る夏の虫、と気づいていない。あと尻尾がないことを見せておく。

猫岳の猫
※本作でいちばん怖い、なにもしない永琳。

女中さんの警告

 初号はいつもの藍で作成。ふと、化け猫はてぬぐいをかぶっていることを思い出し、八雲藍の人間態を作りはじめる。帽子と尻尾を消すのが大変でフルスクラッチしたが、これはこれで違和感があって没になった。
 きつねゆっくりを調整して、帽子なし、尻尾なしを作って、カスタマイズの幅を広げた。えらい手間がかかった。

文庫式らん
※文庫式らん:フルスクラッチ版は没に。

 作業してると、筋之助さんが「らん:後ろ姿」を作りはじめた。形状や位置に注文を出して、できあがった。『猫岳の猫』に出番はないので、『饅頭より餡をこめて』の解説パートに使った。
 合わせて「眉」、「顔」も調整した。

文庫式らん
※らん:髪型を整え、パーツを分解・追加する。

文庫式らん
※らん:後ろ姿のラフ

文庫式らん
※らん:眉を太く、短くした。

文庫式らん
※らん:眉が隠れないよう、マスクした顔色を作成する。

猫岳の猫
※姉さんかぶり。

 初号を筋之助さんに見てもらったところ、女中さん(八雲藍)=三毛猫(Minecraft素材)がわかりにくい、と言われた。なのでMinecraft猫にZUN帽をかぶせようとしたが、うまくいかない。逆に、女中さんの目を金目銀目にすることを思いつく。これでいいじゃん。
 こうなると藍をツリ目にしたくなった。ちくちく作成。ひととおり作ったが、文庫劇団になじむかどうかわからない。たぶん、また調整するだろう。

猫岳の猫
※初期の三毛猫らん

猫岳の猫
※金目銀目がおそろいになる。

文庫式らん
※らん:ツリ目(試作)

追撃

 逃げる若者、追いかける猫女将たち。このへんも映像演出を凝らす。初号はシンプルだったが、空いた時間にちょっとずつブラッシュアップした。

猫岳の猫
※牡丹燈籠の焼き直しだけど、こういう構図は好き。

猫岳の猫
※まー、こわいよな。

猫岳の猫
※2枚の画像を動かしている。モーションブラーではない。

猫岳の猫
※崖の上から見下ろす背景はなかったが、ま、想像できるでしょう。

水ぶっかけ

 ゆっくりでどうやって柄杓で水をぶっかけるか? 思いついたのはゲームウォッチ風画面だった。ゲームウォッチがどういうものか、ここでは説明しないが、私にとっては思い出のアイテムだ。ドット再現しようと思ったが、やめた。再現することが目的じゃない。
 素材が揃ったら、タイムラインに置いて「ちょうどいい動き」「長さ」を探る。

パラシュート (ゲーム&ウオッチ PR-21)
※パラシュート (ゲーム&ウオッチ PR-21)

猫岳の猫
※キャラを操作してる感覚になってくれれば成功だ。

猫岳の猫
※Illustratorで作成した。

生還

 若者は逃げ延びるが、水を浴びた首の付根と脛に猫の毛が生えてしまう。映像化する必要はないが、ゆっくりに粗野なイメージがついてしまうので、最初から猫の橙を配役した。橙なら耳や尻尾が生えても大丈夫。悲劇性も緩和される。

猫岳の猫
※猫になっちゃった!

雑感

 並行して、いろんなことを話した。死期を悟って姿を消す猫、それを見て子どもが学ぶこと、猫会議は意外に高度、猫は死を理解しているか? 日本民話における異類の位置づけ、人間と動物の距離感・・・などなど。
 雑談動画を作る予定はないが、こうした会話が動画づくりに生かされていくだろう。たぶん。

 『猫岳の猫』はおもしろいけど、なにがどうおもしろいか、うまく説明できない。なにか感じ取っていただければさいわいだ。

投稿後

 『猫山の話』は怖すぎないよう演出したが、「猫になりたい」というコメントがちらほらあって戸惑った。猫になる=人間をやめる=人の世から消える=死ぬことへの抵抗感がないんだねぇ。まぁ、本気で死にたいと思ってる人は、ニコニコ動画にコメントしてないだろうけど。
 そのあたりを掘り下げるツイートをした。

 みきとさんにファンアートを描いていただいた。

 対抗してみた。

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