富士登山(富士宮口・登り)
2000年 静岡県 山・渓谷「日本一の山に登ろうッ!」
そう言いだしたのは、私だった。
今年は起業したこともあって、気分が高揚していた。彼女も「ご来光が見たい」と言う。というわけで、富士登山が計画された。私と彼女、そして友人Aの3人で挑戦することになった。
15:00-新五合目(2,400m)
朝10時に東京駅へ集合。新幹線に乗って、富士宮口へ。
5合目まで運んでくれるバスが気持ちよかった。
バスを見上げると、富士山のてっぺんにキラリとひかるものが...。
「あれは富士山レーダーだ。つまり、あそこまで登るのだ」
富士山の大きさ、高さに、今さらながら圧倒される。
私たちが選んだ富士宮口ルートは、勾配はキツいが短時間で登頂できる。ふつーの人で5時間くらい。ご来光があるから、午前5時登頂を目指すとしても、あと14時間もある。
私たちはゆっくり用意して、ゆっくり登りはじめた。
※富士登山:新五合目
17:00-新六合目(2,600m)
登りはじめると、すぐに「雲海荘」という山小屋に到着する。あたりはもう真っ暗だが、3人とも気分がいい。
「この調子なら、登頂もラクかもしれないね♪」
などと考える。しかしこのとき、私たちはたった200mしか登っていなかった。
※富士登山:新六合目・雲海荘
20:00-新七合目(2,780m)
すっかり汗をかいてしまった。
分厚いフリースを脱いで、シャツ1枚になる。さすがにちょっと肌寒いが、その程度。つまり寒くはない。
(こんなに汗をかくなら、防寒装備は邪魔だったも?)
などと考える。山小屋もパスして登りつづける。
※富士登山:新七合目
※富士登山:まだ余裕
23:30-七合目(3,010m)
だいぶ勾配がキツくなった。
足場が悪くて、挫きそうになる。息も上がってきた。ヒーヒーだ。
「次の山小屋までがんばろう」といって登ってきたが、その山小屋が出てこなくなった。間隔が広くなったのか、私たちのペースが落ちたのか...。
3人とも口数が減っていた。
振り返ると、眼下に駿河湾が広がっていた。ものすごく高いところにいるのがわかる。しかし今は感動よりも登りがツライ。そして、気温はぐんぐん低くなっていた。
02:00-八合目(3,250m)
本気で寒くなってきた。
山小屋の温度計を見ると0℃。
私たちはここで最終兵器カッパを装備する。雨よけだったが、こんなものでも着た方が温かくなる。
みんな疲労の色がひどい。
予定より10時間も遅れている。ちょっと信じられないほどの遅さだった。この調子だとご来光までに登頂することは難しい。とはいえ、ここで朝を待つのもツライ。私は意を決し、先に進もうと宣言した。
04:00-九合目(3,460m)
もうボロボロだ。
疲れと寒さ、そして空気の希薄さに追いつめられる。彼女と友人Aは、奪い合うように酸素ボンベを使っていた。私は深呼吸でなんとかなった。これは体質の差らしい。
※富士登山:九合目
もう3人そろって登っていられない。
みんな自分のペースで登り、休み、待ち、追った。登山客の数が増えてきた。下からどんどん登ってきて、私たちをどんどん追い抜いていく。他の人は、なんでこんなに元気なんだろう?
05:30-九号五勺(3,590m)
うっすらと夜が明けてきた。もうご来光には間に合わない。
山頂はすぐそこなのに、ちっとも近づかない。
そんなとき、友人Aがギブアップを言いだした。
「駄目だ。もう帰る」
「まぁマテ。よく見ろ、この高さを。
すぐに帰れるような場所じゃないんだ。
下よりも上の方が近いだろ? な?」
結局、友人Aの荷物を私がもつことになった。
ここまで来たのだ。3人で登頂する以外に道はない。
※富士登山:もう登るしかない
...あと、わずかだった。