12年ぶりの職場飲み会

「久しぶりにみんなで集まりましょう！」

お気楽なメールが届いて、金曜日は昔の仕事仲間4名で飲むことになった。
仕事仲間と言っても、友だちではない。バリバリの上下関係だ。私はもっとも下っ端で、そりゃあもう、コキ使われた。当時──えぇと、12年前──のIT業界は、労働基準法のおよばぬ過酷な戦場だったからね。

※会場は新宿・三是寿司

私たちはチームだった。
『コンバット！』の歩兵K中隊みたいなもの。メンバーを割り当てると、私は二等兵（のちに軍曹）。この飲み会の発起人はＨ衛生兵。それにＳ少尉とＮ少尉（なぜか同じ役職が２名いた）。
ほかにも隊員がいたし、入れ替わりも多かった。４人全員に前任者と後任者がいる。そして、この４人が中心になっていた時期が、だいたい12年前というわけだ。

正直、いやな思い出も多い──。
Ｓ少尉、Ｎ少尉の無茶な命令で、どれだけ徹夜しただろう？　「あの丘をとれ！」と指示されて、土日返上でがんばったのに、指示ミスだったこともある。仕事以外でもトラブルが多かった。どんなトラブルだったか、伏せ字にしても書けないようなトラブルだった。
繰り返すけど、この４人は友だちではないのだ。

しかし、あのころ死守していた仕事（大規模サイト運営）は、べつの会社にとられてしまった。私たちも、今は別々の職場にいる。もはや利害関係はない。だから無理して会う必要もないのだが、避ける理由もないので、行くことにした。

※寿司全品160円だった

集まったのは、新宿にある三是寿司。
あぁ、あのころ、よくここで飲んだなぁ。なつかしすぎる。乾杯して、注文して、飲んで、食べて、話す。利害関係、労使関係、上下関係もないんだけど、まぁ、あのころの口調にもどっていく。私も合わせて、あのころのように返す。

笑って話せない話もある。そういうときは空気を察知してそらすことができた。たとえば、
「いろんな人がいたねぇ。Ａさん、Ｂさん、それに……」
「あとＤさんがいたね！」
「そうそう、Ｄさん」
Ｃさんの名前は出さないのだ。

※会話中に停電があった

飲む前はどうなるか心配だったけど、まぁ、楽しく飲むことができた。
利害関係のために、わだかまりを捨て、上っ面で付き合うのではなく、わだかまりを残したまま、利害関係もないのに、調子を合わせて楽しむ。職場を去るときは、ふたたび会うことはないと思っていたけど、こういう集まりがあっても悪くない。

「また飲みましょう」

もちろん、そう言って別れた。
これが友だちと言うのかもしれない。