秋の吉川出張(1/2) 稲刈りがどれほど大変か
2012年 新潟県 #吉川出張健菜倶楽部の吉川出張に、また同行させてもらった。
6月の田植えにつづき、9月の収穫も見学させてもらった。カタログなどの取材を兼ねた出張だが、主たる目的は農家との懇親にある。健菜倶楽部のL氏は、こうして日本各地をまわっているそうだ。たいへんだ。
N氏は今回も参加できず。なので私が見聞きしたものをまとめておきたい。
吉川区について
健菜倶楽部は、永田農法による野菜・果物の宅配サービス。そこで扱われる健菜コシヒカリは、新潟県上越市吉川区にある契約農家で栽培されている。
吉川は新潟でも有数の豪雪地帯で、尾神岳中腹に小さな棚田がたくさん点在している。観光名所になりそうな史跡や地形はない。人間が住むには不便だが、それゆえ手つかずの自然が残っている。
吉川の人々が、どのような思いで永田農法をはじめたのか? つつがなく出荷できるまでどんな苦労があったのか? ここに書き記すほど、私は事情に詳しくない。ただ農家から断片的にうかがった話は壮絶だった、とだけ記しておこう。
※秋の新潟県上越市吉川区
※軽トラで山あいの棚田を見てまわる
客土
まず、稲刈りの風景を撮影するため、いくつかの棚田を訪れた。6月の田植えでも訪れたが、稲穂が実っていると雰囲気がちがう。
最初に訪れた田んぼは、稲穂の一部がべったり倒れていた。なぜかと聞くと、
「あそこは崩れちゃってね、客土(きゃくど)なんだよ」
と教わった。客土とは、よそから搬入された土のこと。周辺と同じように耕し、田植えをしたが、まだ馴染んでいないため、稲が倒れてしまったそうだ。2,3年で馴染むそうだ。
うはぁ。そういうこともあるのか。
※稲が倒れているところは客土
棚田の稲刈りはたいへん
稲刈りにはコンバインを使う。コンバインは便利な機械だが、棚田のように小さく、いびつな形のところでは大幅に効率が落ちる。小型のコンバインや、手で押すタイプもあるが、それだと田んぼを何周もしなければならない。
ほんと、見ているだけで疲れる作業だった。
※健菜コシヒカリの稲穂
※コンバインで収穫できない角は手で刈り取る
※バリカンのように刈っていく
棚田の端っこは崖になっているから、操作を誤るとコンバインごと転落してしまう。収穫量を増やすため、畦(あぜ)はぎりぎりまで削られる。だから端っこの収穫は神経を使うそうだ。
転落して怪我しなかったとしても、引き上げにはクレーン車がいるし、収穫が遅れれば被害は甚大なものになる。ミスは許されない。
運転席は、エンジンの廃棄熱で熱くなる。おまけに排出される藁もみが皮膚に触れると痒くなったり、肌荒れを起こすため、農家は長袖を着て、タオルで顔を覆う。これまた見てるだけで暑くなる。
根を詰めて作業すると倒れてしまうため、水分補給や休憩を入れながら、計画的に進めなければならない。しかし自然が相手だから、やれるときにやるしかない。
コンバインの刈り取り部は2条から7条まであるそうだが、今回の取材で見たのは2条だけ。7条の大型コンバインが使えるのは、平野部の広い田んぼだけ。大型化すると、操縦席を密閉したり、エアコンを装備できるらしい。
農業の大規模化が求められるのもわかる。
※手で刈り取った分を脱穀する
※ぐるぐる何度もまわって刈り取っていく
コンバインロボがほしい
自脱型コンバインが登場したのは60年代末。それ以前の鎌による手刈を経験している世代は、「コンバインのおかげですっごく楽になった」と言う。しかし都会でIT系の仕事をしている私の目には、とほうもなく面倒な作業に見える。
ルンバのように、勝手に田んぼを行き来して刈り取りしてくれる機械があればいいのに。あるいは稲刈りASIMOとか。技術の進歩が期待される。
※作業風景を撮影する
※カエルも茶色くなった
※(比較)6月のカエル
ライスセンターの試練
脱穀された籾(もみ)はライスセンターに運ばれる。ここで籾を分別、乾燥、貯蔵する。ライスセンターができる前は、農家ごとに穀物乾燥機を持っていたそうだ。ライスセンターができて便利になったが、利用料がかかるそうだ。
※トラックでライスセンターへ
※みなもと生産組合籾乾燥調整施設
※脱穀された籾
農家の収入を左右する
コンバインで収穫された籾は水分を多く含むため、速やかに乾燥機に入れなければならない。しかしその前に、穀物検査員が等級分けをする。質のよくない米は火力で、質のいい米は風力で乾燥させる。
農家の収入を左右してしまうため、穀物検査員には強烈なプレッシャーがかかる。嫌がらせや泣きつきもあるとか。それでも揺るぎない判断を下すのだから、穀物検査員はプライドの高い仕事なんだって。
※穀物検査員が玄米を確認して米の等級分けをする
※風力と火力がある
※健菜コシヒカリは、ほかの米と混ざらないようになっている
※慎重に採取された玄米のサンプル
稲架掛け(はさかけ)の記憶
乾燥機がなかったころは、稲架(はさ、はざ、はせ、はぜ、はで)で天日干しして、十分乾燥してから脱穀していた。 刈り取った稲を重ねると、水分で痛んでしまうため、その場で縛って、稲架掛けするまで、手を止められなかった。
※慣れた手つきで束を作る
農家に稲架掛けする束を作ってもらった。茎で縛って回転させるだけ。ひょひょいと簡単そうに見えるが、私には無理。稲穂を干すことはないが、若いころに繰り返したせいで身体が覚えているそうだ。
こうした苦労を知らず、ごはんを食べてきたことを恥じ入るばかりだ。
吉川出張 | |
---|---|
2013年夏 | |
2013年冬 | |
2012年秋 | |
2012年夏 |