【ゆっくり文庫】ラヴクラフト「闇に囁くもの」

闇に囁くもの 編集後記
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120 ユゴスよりのもの──
ミスカトニック大学のウィルマース助教授は、在野の研究者エイクリーと文通していた。彼の話によると、バーモント州の山間部では宇宙から飛来した知性体・ミ=ゴが跋扈しているという。
The Whisperer in Darkness (1931) by Howard Phillips Lovecraft

原作:TRPGの基本形

Howard Phillips Lovecraft

Howard Phillips Lovecraft
(1890 – 1937)

ミ=ゴはTRPG『クトゥルフの呼び声』によく登場する怪物。なので初出作品である『闇に囁くもの』を読んだ。初読は内容がさっぱり頭に入らなかった。字を目で追っただけ。ルールブック等で物語の概要、設定、「なにが重要でないか」を理解してから読んで、やっとストーリーを把握できた。鍛えられる。
ロバート・ブレイクを殺す『闇をさまようもの』(1936)と別物。「闇」を冠するクトゥフル神話作品が多くて困る。詳しい説明はWikipediaにゆずるが、要点をまとめると下記の通り。

  • ミ=ゴの初出作品。
  • 生物の設定を細かく描写している。SF作品的傾向が強い
  • 当時アメリカを興奮させた「冥王星の発見」をいちはやく取り入れている。

TRPG『クトゥルフの呼び声』の基本フォーマットだから、プレイヤー必読。あらすじだけでも知っておくべき。と思っていたが、昨今の『クトゥルフの呼び声』はあまり1920年代を舞台にしないらしい。私が知ってる『クトゥルフの呼び声』とはちがうのかな?

経緯:《ソフトウェアトーク朗読劇場祭》の5本目

《ソフトウェアトーク朗読劇場祭》への投稿をはじめた9月4日に、あと1本くらい作れないかと思いたつ。5日に台本を書き、6日で仕上げた。けっこう早業なんじゃないか?
ラヴクラフト作品の例として『ダゴン』を制作したが、ゲームがなくても作れることを証明したかった。

先行作品

1987年:(TRPG) ユゴスからの侵略

The Fungi from YUGGOTH

TRPG『クトゥルフの呼び声』のサプリメント(ボックス版)。世界的大企業の陰謀を阻止すべく、アメリカ合衆国からはじまり、ヨーロッパ、エジプト、そしてセラエノの大図書館と宇宙を駆け巡る。
このキャンペーンをやるため『闇に囁くもの』を読んだが、関係なかった。いや、知識があったことでスムースにプレイできたかな。うちのキーパーが魔改造したため、むちゃくちゃになってしまったが、まぁ、楽しかった。
『The Fungi from YUGGOTH』のfungiは菌類のことだけど、当時は侵略と思ってた。

 

1993年:(映画) ネクロノミカン 禁断の異端書

『壁のなかの鼠』『冷気』『闇に囁くもの』の3本立て。どれも別物に翻案されているが、とりわけ『闇に囁くもの』は原作要素が皆無。

2011年:(映画) The Whisperer in Darkness

未視聴。

2016年:(ゲーム) The Whisperer in Darkness

未プレイ。

コメンタリー

ウィルマース教授は、頭はいいけど人を不快にさせる人物なのでパチュリーに。チルノだと抜けすぎる。エイクリーは「向こう側に旅立つもの」だから魔理沙とした。

発端

1927年にヴァーモント州で洪水があったのは事実。冥王星の発見もそうだけど、ラヴクラフトはけっこう時事ネタを盛り込んでいる。
洪水で見つかった死体は本編に関係しないが、削除するとエイクリーとの接点がなくなるため言及した。動画の導入部はとても大事で、なるったけ簡潔にしたい。なのでバーモント州の伝承も、ミ=ゴの外見描写もしない。
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※ミ=ゴはTRPGシルエットでも作れるが、いらすとや素材を活用した。
本編に関係しない情報は出さない
じっさいに登場する怪物はミ=ゴだけだが、ツァトゥグァ、ハスター、イアン、ベツムーラ、レムリアのカトゥロス、ブラン、マグナム・インノミナンダム、ネクロノミコンといった神性、地名、人名、魔導書が言及される。ラヴクラフトの「遊び」なんだけど、慣れてないと戸惑う。全部カット。

設定解説

文通によってミ=ゴの生態が明らかになっていく。解説動画のようにテンポよく、わかりやすくを心がけた。
作中時は1928年(バーモント州の大洪水の翌年)だから、冥王星はまだ発見されていない。が、かまわず言及した。またユゴスは都市の名前とした。
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※設定上、ミ=ゴの武器は「電気銃」「噴霧器」だが、デザインするのが面倒なのでイメージ映像とした。
エイクリーの説明はスジが通っている。いまは「よくある話」に聞こえるが、当時もどうだったのか? ラヴクラフト作品は「おもしろくない」と評されるが、背骨はしっかりしている。
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※カルトはサングラスをしている。→ブラウンへの布石。
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※ウィルマースは科学的常識に固執し、判断をまちがっていく。

気づかれたことに気づかない

郵便物の紛失によって文通は終わる。エイクリーは察したが、ウィルマースは察していない。ここでウィルマースとエイクリーに「気持ちのつながり」があったことを示しておく。でないと後半が噛み合わない。
ちなみに原作のエイクリーには存命の息子がいる。
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※情があるから間違い、情があるから危険を冒す。
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※展開を早める。
早く展開させたいので、汽車の中で手紙を回想することにした。手紙がタイプライターであることや、筆致が変わったことも言及しない。ウィルマースはアイデアロールに失敗しているから

スパイ

原作における内通者はウォルター・ブラウン、ウィルマースを出迎えるのは別人物(ノイズ)だが、面倒だから統合した。アリスを配役したことで、妄想ドラマが広がった。
ちなみに「和解」とは、ミ=ゴの事情を正しく理解すること。結果、SAN値=0になる。
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※明らかに不審だが、いきなり攻撃するわけにもいかない。
ザイアスペック
※カルトのメンバーにザイアスペックを装着させるプランもあったが、小さいし混乱するので見送った。

タメ

エイクリーと面会するまえに、タメを作る。原作を読んだ100人中79人は、この時点でエイクリーは偽物と察している。しかし主人公であるウィルマースがなにも気づかぬまま面会するのは不自然だし、おもしろくない。そこで「おかしい」と気づいているが、エイクリーのことが気がかり、という間を作った。
ブラウンと会話したり、武装を確認することも考えたが、このくらいで留めておこう。
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※異変に気づいているが・・・

偽のエイクリー

座っているエイクリーは偽物だろうが、正体はわからない。「ニャルラトテップが化けている」と考える人もいるが、エイクリーの顔と手首を使うとは思えない。まぁ、顔と手首が見つかるのは、「話していたのはエイクリーじゃない」と明示するためだから、ニャルラトテップのイタズラとも解釈できる。
文庫版では、ミ=ゴが操演していることにした。声や口調は変えなかった。明らかにおかしいから、これ以上の根拠はいらない。むしろ「気分が高揚したエイクリーかも?」と思えるほうが怖い
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※様子がおかしいが、どう接していいか迷う。

Mi-go Brain Cylinder

脳を詰める円筒は、圧力鍋をモチーフとした。脱力するデザインだが、【ゆっくり文庫】にはこのくらいがちょうどいい
シリンダーの状態は3種類あって、起動、休眠、不在。不在2つはブラウンとウィルマースのため。起動して話を聞いているのはエイクリー(ケーブルがつながっている)。シリンダーに感覚器官はない。レンズではなく、ランプである。
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※内訳が通じただろうか?

円筒状の脳収容器
TRPG設定のシリンダーは快適ではない。視野の解像度は低く、音声は聞き取りにくく、会話もままならない。シリンダーに脳髄を入れられた探索者は毎月INTロールを行い、失敗すると1D3の正気度を失う。つまり発狂は不可避。

HPLは語る

原作で起動するのは《B-67》だが、ミ=ゴが英語と数字で管理するのは変だから名前にした。「HPL」はもちろんハワード・フィリップス・ラブクラフト御大。フリッツ・ライバーの短編『アーカムそして星の世界へ』(1966, To Arkham and the Stars)で、ラヴクラフトは死の間際に脳髄を抜き取られ、宇宙旅行に旅立ったことになっている。『闇に囁くもの』執筆時点のラヴクラフトは41歳。死ぬ6年前で、無名の人物だったが、せっかくなので設定を流用した。
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※鬼にならないか?

ミ=ゴの目的

ミ=ゴ側の動きを考えてみよう。
内通者(ブラウン)を見つけた。学者(エイクリー)が調査していて、その内容が大学教授(ウィルマース)に漏れている。まずブラウンと「和解」。屋敷に乗り込んだとき、手違いでエイクリーに致命傷を負わせてしまった。脳髄をシリンダーに移し替えて、エイクリーと「和解」する。
さて、ウィルマースがもつ証拠を回収し、必要なら抹殺しなければならない。そこでエイクリーの顔と手首を使って操演することにした。ミ=ゴはエイクリーの約束を受け入れ、ウィルマースに考える時間を与えた。
さいわい・・・ウィルマースは鈍感だったため無害認定された。ミ=ゴは、「ウィルマースは来ないだろう」と予想。エイクリーも同意して、撤収を早めることにした。
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※アイデアロールの連続失敗によって生還する。

エイクリーの顔と2つの手首

本作のキモは、「怖いものはなにも見なかった」ことにある。なのでエイクリーの顔と2つの手首も出さなくていいと思っていたが、『闇に囁くもの』の象徴する要素だから削れなかった。『ダゴン』における「窓に!窓に!」みたいなものか。
安直と思わなくもないが、エイクリーが生きているなら救出しなければならない。これはこれでいいのか。
The Whisperer in Darkness 2011
※2011年の映画。ショッキングではあるが、ショッキングでなくてもいいような…

後日談

「話していたのはエイクリーじゃなかった」という事実は、ウィルマースには衝撃だが、読者には既定路線。物足りないから、最後を少し変えた。闇は輝いてこそ、恐ろしい。
アイデアソースは『新トワイライト・ゾーン』の『カメレオン』(The Twilight Zone S1-2C Chameleon 1985)
ちなみに、ブライアン・ラムレイが執筆した『タイタス・クロウ・サーガ』には、対邪神組織ウィルマース・ファウンデーションが登場する。その設定も盛り込もうと思ったが、ややこしいのでやめた。
ウィルマースは星の世界に誘惑された自分を許せなくて、財団を設立したのだろう。

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※闇が囁く。サングラスをかけると意味が強くなっちゃうので自重。

雑記

ラヴクラフト作品は「読みにくい」「安直」「ドラマがない」などと評されるが、21世紀の現代、これほどド直球のホラーは貴重かもしれない。クトゥルフ神話は素材的に困難、と忌避していたが、やればなんとかなった。地平が広がった気がする。
TRPGに置き換えると、私はこーゆーオーソドックスなシナリオが好き。「自分なら行かない」「自分なら逃げる」というのは自由だが、カッコ悪いし、楽しくない。どこまで踏み込んで、どのように仕掛け、いつ逃げるか? なんのため死ぬか? TRPGは、みんなで物語を作って、いろんな人生を試すゲームだった。

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