メイン脳とサブ脳

2004年 哲学 日常
メイン脳とサブ脳

目が覚めると、枕元に携帯電話が転がっていた。

しかも、電池が抜かれている。電池を戻して、着信履歴をみると、友人から1件。
(もしかして、ヤツが……?)
おそるおそる、その友人に電話する。

私「やぁ、昨夜、電話してくれたみたいだけど……」
友「したよ。というか電話に出たじゃないか」
私「……で、おれ、なんか言ってた?」
友「忙しいから話せないって……。ん? もしかして?」
私「あ、あぁ、覚えてないんだ」
友「……あれが、サブ脳か……」

ヤツとは、サブ脳のこと。
私の頭蓋には、通常使っているメイン脳のほかに、緊急用のサブ脳が搭載されている。メイン脳がダウンしているときだけ、サブ脳は起動する。
たとえば、疲れきって寝ているときに、電話が鳴る/目覚まし時計が鳴る/誰かが話しかけてくると、サブ脳が起動する。このとき、メイン脳は眠ったままらしい。

サブ脳は、とにかく身体を休ませることを優先する。
大事なイベントがあろうとも、大切な人からの電話であろうと関係ない。睡眠を継続するためなら手段を選ばない。
ひらたく言えば「寝ぼけている」わけだが、その行動には知性が感じられる。たとえば昨夜なら、睡眠中、携帯電話が鳴ったのだろう。2度、3度と鳴ったのでサブ脳が起動。電話をとって、適当なことを言って相手を納得させる。その後、もう掛かってこないように電池を抜いて、枕元に投げ捨てる。
──これがサブ脳の仕事だ。

私自身はわからないのだが、サブ脳の会話は、ちょっと変だなとは思うものの、それなりにスジが通っているらしい。
「そのイベントは、来週に延期になったんだよ」
「いま仕事中で手が離せないんだ。悪い。またこっちから掛け直す」
「その話なら、○×に聞いた方がいいんじゃないか」
といった応対をするようだ。

しかしサブ脳も万能ではない。
数年前、目覚めると部屋中のリモコンの電池が抜かれているということがあった。テレビ、ビデオ、エアコン、オーディオなど手当たり次第だ。
(すわ、泥棒か!?)
とも思ったが、やがてサブ脳の仕業だとわかる。
1つずつ電池を入れていくと、ポケベルの電池が切れていて、ピーピー鳴ることを発見。
(ポケベルの電池が切れると、こんな音がするのか)
つまりサブ脳は、ピーピー鳴っているのがどれなのかわからず、すべてを抜くしかなかったのだ。
深夜に、1つずつリモコンの電池を抜いていく自分自身の姿を想像すると、情けなくなる。

この話は、電話中の友人にも話してあったので、すぐにわかってもらえた。

友「……あれが、サブ脳か……」
私「そのようだ」
友「で、いま、話しているのはどっち?」
私「どっちって、メインだよ、メイン」
友「サブ脳も、そのくらい言いそうだったよ」
私「おれはメイン脳だ。サブじゃない!」

ヤツとの付き合いは長いが、遠からず決着を付けねばならんな。

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