おまえはあのプレシオスの鎖を解かなければならない

2004年 哲学 仕事
おまえはあのプレシオスの鎖を解かなければならない

私の仕事は「物事を整理すること」だと思っている。

わけのわからないプロジェクト。その原因を解き明かし、目指すべきゴールをイメージする。必要なリソースの手配して、スケジュールを組み、誘導していく。それが、私の仕事である。

私のところにまわってくるのは、どれも混乱したプロジェクトばかりだ。逆に、整理されたプロジェクトが、私に発注されることはない。

20代前半は、こうした混乱が大嫌いだった。許せなかった、といってもいい。

「なぜ、こうも仕様がひっくり返るのか?」
「どうして無駄を強いられるのか?」
「思うようにならない原因はなんなんだ?」

仕事に集中したいのに、邪魔ばかりされる。そのたびにブチ切れて、上司とケンカしてばかりしていた。

だからこそ

やがて . . . 事実はまったく逆であることがわかる。仕事なのに混乱しているのではない。混乱しているから、仕事になっているのだ。

達成させるのに、まったく障害がない仕事......?
きちんと仕様が決まっていて、納品まで変更がない依頼......?
知識と経験、そして理解あるクライアント......?
──そんなの、ツチノコを探すより難しい。

そして . . . 自分自身もまた逆であったことに気づく。私は、混乱を避けたいのではなく、支配したいのだ。

パズル好きのようなものだ。難解だからと言って、背を向けるわけにはいかない。1つパズルを解くと、さらに難しいパズルがまわってくる。それに対応できるよう、自分の技量も高めていく。

そんな私を見て、「マゾっぽい」という人もいる。あんがい、そうかもしれない。

私にとって、もっとも混乱したプロジェクトは「人生」だ。これは途方もなく難解なパズルで、なかなか思い通りにならない。だからといって、背を向けるわけにはいかない。必ず解き明かし、自分のものにしてみせる。

「ああごらん、あすこにプレシオスが見える。
 おまえはあのプレシオスの鎖を解かなければならない。」

宮沢賢治『銀河鉄道の夜』