テレビを消せ!

2004年 娯楽 テレビを消そう
テレビを消せ!

家に帰ると、妻がテレビを観ていた。
(すぐには言わない。すぐには言わないようにしている……)

小一時間したところで、問いかける。
「見てるの?」
「え? あ、テレビ? うぅん、見てない……」
「じゃ、消せ!」
「えぇ~~~」
不満そうな妻に、私は理由を説明してやることにした。

私は、まんぜんとテレビを観るのがキライだ。
というより、こわい。
テレビには、人間の思考力を奪う効果があるのだ。

──2年前、私は独りで北海道にわたった。
苫小牧行きのフェリーに愛車を乗せて、2等船室で雑魚寝した。
乗客の大多数はトラック運転手だ。
ほかの客たちも、ブルジョアからは遠い感じがする(私もその1人だ)。
そんな、荒れた雰囲気をもつ男たちが、20時間にわたって閉じこめられるのだ。じつにスリリングである。

それにつけても、20時間は長い。
私のような探検好きでも、5時間もすれば飽きる。
飽きて、寝て、起きてもまだ海の上だ。

しかし2等船室には、テレビがあった。
広い部屋にテレビが1つだから、チャンネル権などない。
……というか、関心をもって観ている人などいないようだ。
なにやら動いて、笑い声がして、文字と効果音が飛び出している。
観ているような、観ていないような……。
半眼を閉じたような状態になる……。
……よけいなことは考えなくなる。

もしテレビがなかったら?
イライラは蓄積され、暴動が起きたかもしれない。あるいは喧嘩? ストレスがきつくて、フェリーの利用者が減るかもしれない。
しかしテレビを1台、置いておけば、みんな静かになる。
……みんなの思考が停止するからだ。

テレビは、観ている人の思考力を奪い、集中力を妨げる。
人生の貴重な時間を、どんどん吸収してしまう。
それは家庭においても同じだ。
テレビがあると、なんとなく時間が過ぎてしまう。
本を読んだり、考え事をしたり、夫婦で向き合う時間も減ってしまう。

だから、まんぜんとテレビを観るな!
観たい番組が終わったら消すのだ!

「わかったか?」
「うん」
妻は頷いて、テレビを消した。
そしてまた、私の前にもどってきた。

「夫婦で向き合いましょう!」
私の方をまっすぐにのぞきこむ。

(ま、まずい。これから日記を書きたいのだ。
 そのあとはサイト巡回に、メールの返事……。
 妻にかまっている時間はない……)

私はテレビをつけた。
「テレビでも見ていなさい。」
「えぇ~~~!」

人生は、ままならぬ。