いちご狩りの罠
2005年 生活 健康 食事──いちご狩りに行ってきた。
ヒトクチに"いちご狩り"と言っても、いろんな選択肢がある。
場所、品種、栽培方法、料金、時間制限……。
多くの農園は、30分制限になっていた。
30分は長いか、短いか? 私たちは短いと思った。
ゆっくり、たっぷり食べたいので、時間制限のないところを選んだ。
◎
しかし、実際はあっという間だった。
20分もあれば十分だった。
ゆっくり食べたいと思ったのに、急いで食べてしまった。
たっぷり食べたいと思ったのに、そんなに喰えなかった。
スーパーで食い過ぎることはない。
しかし食い放題になると、つい食い過ぎてしまう。
美味しく食べられる以上を食べてしまう。
……まったく愚かしい話だ。
◎
ビニールハウスを出て、山の斜面に座り込む。
冷たい2月の風が気持ちいい。
駿河湾を見ながら、私は妻に言った。
「デルポイの神殿には、2つの神託が書かれている。
1つは、《汝自身を知れ》。
もう1つは、《何事も度を超さぬように》だ。」
妻は、ほへーという顔をしていた。
「私は、制限の中で自分を律していたに過ぎない。
そんなの、コントロールじゃない。
好きなだけ喰えるとなったら、食い過ぎになる。
これじゃ、まったく子どもじゃないか。」
「本当に賢い人物は、自分に必要な分だけ皿に盛るのだろう。
とはいえ、人はどこまで賢くなれるだろうか?
たとえば、人生の目的が40年で達成できるとしたら、
40歳まで人生(時間制限)で十分と言えるだろうか?
言えないだろう。そして、人は無為な老後を送ってしまうのだ。
……妻よ、聞いているか?」
妻は答えた。
「もう、食べられません」
駿河湾がきれいだった。