駅馬車のジレンマ

2005年 社会
駅馬車のジレンマ

──1台の馬車がやってきた。
御者が馬に命令する。「もっと急げ!」
しかし馬は命令されるのが大嫌いだった。「それはあんたの都合だろ!」
こうして馬車は駅に到着したが、客は怒り狂っていた。
「なんだこの馬車は! もう乗るもんかッ!」
がっくりと肩を落とした御者は、馬のくつわを外してこう言った。
「ほら、もう完全に自由だよ、どこへなりと行くがいい」


──2台目の馬車がやってきた。
御者が鞭をふるい、馬が全力疾走していた。
こうして馬車は駅に到着したが、客がゴネはじめた。
もっと安くしろ、もっとサービスしろと騒いでいるようだ。
御者は、へーこら頭を下げて、客の言うとおりにした
「この次もご利用くださいね~♪」
厩舎にやってきた御者は、馬たちにニンジンを渡した。
「すまんな。今日からニンジンは1本減な。不況なんだよ」
馬は、静かに泣いた。


──3台目の馬車がやってきた。
小気味よく飛ばしている馬車だった。
駅に到着すると、やはり客がゴネはじめたが、御者は突っぱねた。
「文句があるなら、もう乗らなくてけっこうですよ。さいなら!」
その後、客たちが困ったかどうかは不明だ。
一方、厩舎にやってきた御者は、馬たちに伝えた。
「おれたちは奴隷じゃない。誇りは守ったぞ!」
しかし馬たちは怒り出した。ニンジンが3本も減だったからだ。
「なんで1本減で我慢できなかったんですか!」


──4台目の馬車がやってきた。
ひどい馬車だった。
御者は前を見ず、馬は走らず、客は行き先を決められない。
そんな関係が長くつづくと、3者は融合しはじめた
馬が行き先を指定して、客が荷物を運び、御者が進路妨害する。
もはや、なにがなんだかわからなかった。

やがて、馬車はどこかの駅に着いたが……目的地ではない。
だから旅はつづく。
客は無駄銭を払わされる。
馬のニンジンは減って、脚力は衰えてゆく。
御者の資産(客車)はボロボロ……。
文句と罵倒は絶えないけれど、3者はそれなりにシアワセそうだった

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