果実をとる方法 【上】

2005年 哲学 果実をとる方法
果実をとる方法 【上】

──1990年(19歳)。私は友人Gと飯田橋にいた。

Gは、高校時代からの友人だ。この時点では卒業から1年目になる(私は浪人中)。
高校時代、私とGは共同で長編小説を書いていた。ファンタジーノベルである。といっても、この時点ではプロット段階。大長編だったので、設定資料や構想メモだけが膨大になっていた。
私たちはこれを、飯田橋の出版社にモチコミに来たのだ。

高校時代の先輩がこの出版社に勤めていたのだ。
私たちの共同執筆を聞きつけた先輩は、「未完成でもいいからもってこい!」と段取りを付けてくれた。このチャンスを逃すまいと、私とGは資料をまとめて、紙袋につっこんで、電車に飛び乗った……というわけである。

ルーズリーフを広げて、熱っぽく語る私とG。
未完成ゆえに、熱く語るしかなかった。
その魅力、展開、キャラ、テーマ、ターゲット、文庫本にしたときの頁数など……。
思えば、これが私が作った最初の企画書だったかもしれない。

話は盛り上がって、先輩の上司が乱入。時刻は22時をまわった。
そして、次の面談の約束を取り付けることができた。
しかし……。

──帰り道。私とGは悩んでいた。
プロの編集者を前に語り尽くしたことで、私たちは、自分たちの底の浅さを思い知らされていた。鋭いツッコミを即興のアドリブでかわしながら、内心では「なぜそこを考えておかなかったのか」と自分を呪っていた。痛恨の思いだった。

準備しているときはいい。熱狂と反射で踊っている本番もいい。
だが、舞台の幕は下りた。
冷静にステージの内容を思い返してみると、恥ずかしくなる。まったくもって力量不足だった。

そして、私たちは決断した。次の約束はお断り(辞退)しようと。
これ以上、「やっつけ」の踊りをつづける自信はなかった。
悔しいけど、今は自分を鍛えるときなのだ。
チャンスはまた来る!

つまり……私たちは……逃げたのだ。
この日から、果実を求める旅がはじまった。

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