引き潮のとき

2005年 政治・経済
引き潮のとき

かつて、駅には改札員がいた。
一日中、改札鋏をカチャカチャ鳴らして、膨大な量の切符をさばいていた。客から切符を受け取り、切って、また返す。放り込まれた切符を見て、料金を確かめる。問題があれば呼び止め、必要なら追いかける。
それは、とてもたいへんな仕事だったと思う。職人芸だったはずだ
だがしかし……いま、改札員という仕事はない。
自動改札機が作られたからだ。

高速道路の料金所もそうだ。
暑い日も寒い日も、排気ガスが充満する中に立ちつづけ、チケットを受け取り、料金を精算する。この料金回収係の仕事も消えようとしている。
E.T.C.が広まりはじめているからだ。

そして、やがてはレジ打ちも消えるだろう。
スイカや携帯電話による精算システムが開発されたからだ。近い将来には、すべての商品にICタグが埋め込まれ、ゲートを通るだけで精算できるようになるだろう
レジ前の行列なんて「21世紀初頭の風景」と言われかねない。

もちろん、すべてが消えるわけじゃない。
自動化・機械化・無人化・省力化できない部分はある。
だが、残れるのは本当に熟練した職人だけだろう。それでも、勤務地や勤務時間、報酬などの条件は厳しくなるかもしれない。

──世の中は変わっていく。
新しい仕事が生まれるかたわらで、古い仕事は消えていく。
潮が引いていくように……。
海でゆるゆる泳いでいた魚たちも、潮が引けば砂浜に打ち上げられる。そうなる前に、なにか手を打たなければならない。

私は、改札員やレジ打ちといった仕事を馬鹿にするつもりはない。
また、こうした仕事に従事した人が、みんな不幸になったとも思えない。
長い目で見れば、どんな仕事も消えていくし、変わっていく。それに変化は、一方では新たなチャンスも生み出してくれる。
その気があれば、変化を利用できる。

──世の中は変わっていく。
ぼんやりしてると、引き潮に取り残されてしまう。
明日の波を見通して、そこへ向かって泳いでおこう。

今は、そーゆー時代なんだ。

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