頂上疾走

2005年 社会
頂上疾走

──1999年(29歳)。
取引先の部長さんがこんなことを言い出した。

「伊助くんは仕事はできるが、人としての面白味に欠けるな。
 ゲームだ。プレステを買いたまえ!
 そして、おれと同じゲームをやろう!」

「プレステを買わなければ、取引を打ち切る」とまで言い出した。無茶苦茶な話だが、まぁ、よくあることだ。私はプレステを買うことにした。

思えば、ゲームウォッチ以来のゲーム機だった。
私はファミコンもスーファミも持ってなかった。ゲームとは、友だちの家で遊ぶものだった。
『Wizardry』などのPCゲームに熱中した時期もあったけど仕事のために捨て去って久しかった。

部長さんのご推薦は、『パラサイト・イブ(1998:スクウェア)』だった。
私はそれを買って、プレステの電源を入れた。
──おもしろかった。
3D表現技術がこれほど進化しているとは思わなかった。

『パラサイト・イブ』は、クリア後のデータを引き継げる。
なので、クリアすればするほど武器やキャラが強くなる
部長さんは、かなりやり込んでいるらしく、毎日のように進捗を聞かれた。
「いま、どこにいる?」「まだそんなところか。遅いなぁ」
「どうやって倒した?」「あいつは、火に弱いんだよ」
ウンザリした私は、本気でアタックすることにした。

……あとの顛末は、ご想像のとおりである。
私のキャラは強くなりすぎた
裏エンディングのボスさえ、瞬殺できるレベルになってしまった。超レアなアイテムがずらーっと並び、稀少なパーツで構成された武器は攻略本に掲載される究極型と等しかった。

比べると、部長さんのデータはお粗末だった。
強いは強いが、ふつーの強さだった。クライスラービルもギリギリで突破したのだろう。この程度で偉そうなことをいっていたのかと思うと、溜め息が漏れてしまう。

……あとの顛末は、ご想像のとおりである。
私はそのデータを部長さんに見せて(自慢して)しまった
思えば私も若かった。

「伊助くん。こんな単純なゲームで競っても意味はないよ。
 ゲームする時間があるなら、仕事をしたほうがいいぞ。」

部長さんの好感度が下がった。
ゲームは本当に難しい。

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