食の冒険家、自重せよ

2005年 生活 健康
食の冒険家、自重せよ

「同じものばかり食べずに、いろんなものを試してみるんだ。」
親父はそう教えてくれた。

子どものころ、親父に連れられて焼き肉の食べ放題に行った。
まだ幼い私は、目に付いた好物をがぶがぶ食べて、あっという間に満腹してしまう。ふと、親父が焼いた肉を食べてみると、ものすごくうまかった。でも、もう腹一杯で喰えない。
(もっと早くこの味に気づいていたら……)私は悔しがった。
親父は、まず最初に全種類の肉をちょっとずつ食べてみて、いちばん気に入ったもので腹を満たしていたのだ。

「世の中には、美味しい食べ物はいっぱいある。
 なにが美味しいかは、食べてみなくちゃわからない。
 だから、いろんなものを試してみるんだ。
 美味しいとわかっているものばかり食べていると、
 そのとなりにある、もっと美味しいものを見逃すかもしれないぞ。」

それは、私の人生を左右する"教え"だった。
美味しいとわかっているものに安住せず、未知なる味へ果敢に挑戦する。
──私は食の冒険家となった。

先日の話のつづきである。
この信念もまた、大きく揺らいでいる。

冒険する精神は、商売に利用されることとなった。
限定商品が氾濫し、話題性のみがクローズアップされるようになった。
コンビニの品揃えや、繁華街の飲食店を見てみればわかる。
目新しいものが登場すると、つい試したくなるんじゃないか?
「期間限定、当店限定、1日10食限定! ☆◇シェフの○×風△□セット」というメニューがあると、よく考えずに注文していないか?
ウマイのマズイの騒ぐのは一瞬で、すぐまた別の珍品に目を奪われていないか?

    こんなの……冒険でもなんでもない。

そこで、私は考えを変えた。
「試さない勇気」「無視する判断」「惑わされない理性」である。
わけのわからないものを注文しない。飾り付けや宣伝に踊らされない。
知識と経験を活かして、玉石混淆の中から真に美味しいものを見極めるんだ

……と言えるようになりたい。