きみは星を見るか?
2005年 哲学 オタク文化
アメリカでは不況になると、巨乳モデルのグラビアが売れるらしい。
おっぱいは、母性の象徴。つまり、不況によって自信をなくしたアメリカ人男性は、母性への回帰を求めて、巨乳をもてはやすそうな。
日本では、その対象は幼生になるのかもしれない。未成熟な少年/少女は、可能性の象徴だ。これから伸びていくもの、汚れなきもの、健やかなるもの......。自分たちが失ったものを、まだもっている存在だ。
「おれはもう駄目だが、キミたちには可能性がある。未来がある。若さとは、なんと素晴らしいんだ。その生命力を、おれにも分けてくれぇ......」
夢破れた日本人男性は、幼生への回帰を求めて、ロリコンやショタに走るのかもしれない。
◎
......という話をX先輩にしたところ、はっはっは、と笑われた。
「伊助くん、それは読みが浅いよ。」
「......どういうことです?」私はむっとした。
「"萌え"の対象はなんだね?
グラフィック、ポリゴン、フィギュアなどの非生物だよ。
少年/少女をモチーフにしたものも多いけど、
その本質は、理想、究極、完璧なものだよ。」
「......?」
「ローティーンのアイドルが流行しても、わずか数年。
あっという間に成長して、くだらない大人になる。
しかし萌えキャラは、半永久的に使用できるんだ。
スキャンダルもなければ、うんこもしない。
理想的な性格、究極のプロポーション、完璧なシチュエーション。
これが、幼生への回帰願望であるわけがない。」
「......」
「彼らが求めているのは、若さでも可能性でもない。
はじめっから存在しなかったものだ。
萌えは、現実より出でて、現実を越えるものなんだ。
なぜ、そんなものにあこがれるのか?
つまり、現実にはもう夢がないのさ。」
「......うはぁ」
「この心理は、戦国時代に"南無阿弥陀仏"と唱えて、あの世にあこがれた民衆や、どうしようもない終身刑の囚人が見る夢に通じるところがあるかもしれないな。」
だいぶ話がそれた気もするが、これはこれで興味深い意見だった。
「......それじゃ、先輩はどうなんです?
その心理を先輩は、どう思っているんですか?」
X先輩はズルイことに、引用で答えた。
二人の囚人が、鉄格子の窓から外を見た。
一人は泥を見た。
一人は星を見た。──フレデリック・ラングブリッジ『不滅の詩』