かちかち山事件の責任
2005年 哲学 N氏「なんでババァは、縄を解いたのかなぁ……」
N氏には4歳になる娘がいる。先日、『かちかち山』を読んで聞かせたところ、上記のような感想がこぼれてきたそうだ。
……命乞いをするタヌキをあわれに思ったお婆さんは、タヌキの縄を解いてしまう。するとタヌキはお婆さんを殺して、それを「タヌキ汁」と称してお爺さんに食べさせ、山に逃げてしまう。
タヌキの凶悪さが強調されるシーンだが、娘さんの価値観では、凶悪なタヌキを解放したババァが悪い(=不用意すぎる)と言うのだ。
「タヌキって残酷だよね~。お婆さんを汁にしちゃうんだよ~」
N氏は、本来あるべき路線に戻そうとしたが、「でも、タヌキも食べられるところだったんでしょ?」と言われて、返事に窮する。
言われてみれば、もっともな話だ。タヌキ汁にされそうになったタヌキが反撃して、自分にやろうとしていたことをやり返す。これを「残酷だ、凶悪だ」と騒ぐのは、自分は「食べる側」にいるという人間の思い上がりではなかろうか。
……悲嘆に暮れるお爺さん。そこへウサギがあらわれ、
「かたきを討ってあげましょう」という。
(なんで、ウサギが復讐してるんだろう?)
今度はN氏が疑問に思った。
ウサギもタヌキの仲間であって、同じ「食べられる側」だろう。タヌキを助けることはあっても、人間に味方したり、ましてや復讐を代行してやる理由はない。そもそもお爺さんは、なぜ自分で復讐しないのだ?
……ウサギはタヌキの背を焼いて、傷跡に唐辛子を塗る。最後は泥船に乗せて溺死させる。死にゆくタヌキに、ウサギは言い放つ。
「これは、お婆さんのかたき討ちだよ」
善意の第三者が、ここまでやっていいのか?
タヌキの側から見ると、コイツは人間にへつらう裏切り者じゃないか!
N氏はうなった。しかし娘さんは、ウサギの言動は気にならないらしい。「かたき討ちするのが好きなウサギ」として認識されているようだ。ちょっと違うような気もするが……「ではなんなの?」と聞かれても困る。
N氏はわからなくなった。
※『かちかち山』のストーリーを思い出せない方は下記へ
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