N氏の神経衰弱
2005年 生活 教育 N氏──昨日、N氏から聞いた話。
N氏には4歳になる娘がいる。休日は娘と遊んでばっかり。最近は、神経衰弱ゲームができるようになったそうな。
ところが、娘さんは異様に強いらしい。
次から次へとカードを当てていくそうな。
(ひょ、ひょっとして、透視能力?)
と思ったが、ちがった。
「パパ、みかん取ってきて♪」
といってN氏を席から立たせ、そのすきにカードをめくって見ていたのだ。しかも覚えやすいよう、場所も入れ替えていた。
これじゃ強いはずだよ!
しかしN氏は、気づかぬふりをした。
ちょっと悩むと、あからさまに席を立たせようとする娘を、ほほえましく見ていた。
が……何回か繰り返しているうちに、N氏は悩みはじめた。
(これって、ズルだよなぁ。
ズルを容認するのは、子どもの教育としてどーなの?
親としては、ズルを叱るべきなんじゃないのか……)
この考えに、N氏の奥さんは反対した。
「なに言ってるのよ!
ルールを守って、真面目にコツコツやれば幸せになれるわけじゃないでしょ。世の中で成功した人たちは、みんなどこかでズルしてるじゃない。私たちの娘を、誰かが決めたルールに従うだけの作業員にしたいの?
ズルを叱るんじゃなくて、上手にズルする方法を教えてあげなくっちゃ。」
──N氏は反論できなかった。
とはいえ、上手にズルする方法を教えられる自信もなかった。
なぜならN氏は、ルールを守って、真面目にコツコツやる生き方しか知らないからだ。なので奥さんの指摘は、ズバリ自分自身への批判のように思えた。
てなわけでN氏は、娘と神経衰弱するたびに、神経衰弱になるそうだ。