言うことを聞くな
2006年 政治・経済 仕事「客の言うことを聞くな!」と、私はスタッフを叱りつけた。
資料を見てほしいと言われてみたら、わけがわからない。
作成した彼女が言うには、「クライアントの言うとおりにしたら、こうなってしまう」だとさ。
そこで私の怒りが爆発した。
もちろんクライアントは大事だ。
お金をもらっている以上、その要求には応えなければならない。
だけど、客の言うことを聞けばハッピーになれるわけじゃない。
そもそもクライアントは、問題をクリアできないからプロを喚んでいるのだ。にもかかわらず細かいところにクチを挟むのは、レストランに入ってきて自分に料理させろと言っているようなもんだ。
素人に包丁を握らせて、その結果を保証することはできない。
仕事が失敗したとき、割りを食うのはこっちだ。
「だって、あなたの言うとおりにしたじゃないですか!」と陳情すれば、責任は回避できるかもしれないが、次の仕事はない。
客の言うことを聞くのは、その方が都合がいい場合だけだ。
◎
という話をしたら、彼女は黙りこくって考えた。そして、こう切り返してきた。
「それじゃ、社長の言うことも聞かなくていいんですか?」
「もちろん」と私は答えた。
「仕事が失敗しても、責任とらなくていいんですか?」
「いや、失敗したら減給する」
「ひどい。それじゃ、言うことを聞くしかないじゃないですか」
「それはちがう。
失敗したら減給するのであって、言うことを聞いたかどうかは別。
成功すれば、私の指示に従ったかどうかは問わない。
ということは、いちいち指示せずに成功してもらった方がいい」
「……儲ければいいってことですか?」
私は肩をすくめて答えた。
「そうじゃない。
結果よりも経過が大切だし、会社としての方針もある。
だけど、なんに従うか、どこへ行きたいかは自分で決めるんだ」