本当の悪

2006年 哲学 スーパーにて 考え事
本当の悪

「本当の悪を見せてやろう」

中学生のころ、スーパーの食料品売り場を歩いていたら、友人にそう話しかけられた。なんの脈絡もない、唐突な切り出し方だった。
なにをするんだろうと思っていたら、お菓子売り場に連れてこられた。ちらちらと周囲を警戒すると、友人は1枚の板チョコを手にとって、いきなりそれをベキッと割ってしまった。

「あっ!」

包装は破れていないが、中のチョコは確実に割れた。それを元の棚に戻すと、友人は自慢げにこう言った。

「これが……本当の悪だ!」

ほどなく私は彼との付き合いをやめた。
あのとき、彼はなにを示そうとしていたのだろう?
その真意はわからないが、買う気もない板チョコを割るようなゲスを許せるはずもなかった。

ふと思い出したので、考えを掘り下げてみる。

私はなぜ、激怒したのだろう?

よくよく考えてみると、私自身はまったく被害を受けていない。
私はスーパーの経営者でもない。買った板チョコが割れていて、悲しい思いをしたわけでもない。私の身内が割れた板チョコを買っていく可能性も低かった。さらには、彼がなにかしらの利益を得たわけでもない。

──本当の悪とはなんだろう?

彼が示したものが「本当の悪」であるならば……
それに反発した感情こそが、「本当の善」なのかもしれない。