教わること:後編
2007年 社会 考え事5年後、私は後輩Jと深夜の公園で話す機会があった。
※当時は金がなかったので、飲みに行けなかった。
後輩Jは大学で自然科学を専攻していたので、私は「万有引力への疑問」を投げかけてみた。
「え? ちょ、ちょっと待ってください」
Jは地面に枝で数式を書きはじめた。
私が高校時代に拒絶した方程式だ。あれこれ数値を入れて、式を増やして、ようやく答えが出た。
「んー、やっぱり同時に落ちますね」
ヘタレ先生と同じ解答に、私は苛立った。
「なんで? どうしてさ? おかしいじゃない!
その方程式が正しいって、どうしてわかるんだよ!」
子どもっぽい私の問いかけに、Jは悩んだ。
「うーん、うーん、うーん……。
赤はなぜ赤いのかって、訊かれても~。
うまく説明できないけど、証明はできます。
でも、物理の素養がないと理解してもらえるかどうか。簡単な方程式にたどり着くのが、物理ではもっとも難しいですから……」
◎
つまり、こういうことだ。
最初の方程式を拒絶した私は、その先を知ることもなく、結果として、最初の方程式も解けなかったわけだ。
聞けば、Jも高校時代は理解できなかったという。
しかしひとまず記憶して、先に進んだ。それが私とJの違いだった。
「あるいは……」と、Jは言った。
「あるいは、ヒラ先輩が物理学を学んでいたら、ぼくより上手に説明できたかもしれません……」
◎
私は、私の先生になり損ねた。