「下」をのぞき込むときは

2007年 政治・経済 仕事 時事ネタ
「下」をのぞき込むときは

またワーキングプア番組を見てしまった。

もう毎週のようにやってるなぁ。
例によって重労働、低賃金、不安定な生活にあえぐ人たちが紹介されていた。こういうのを見ると、「自分はあそこまで悲惨じゃない」とか思ってしまうけど、それこそが番組の狙いではないかと勘ぐりたくなる。

番組内で日雇い労働している親子が紹介された。
会社をリストラされた父親が、ワーキングプアの息子に、「早く正社員のクチを見つけてほしい」と話していた。
なんか変じゃね?
この父親がどうしてリストラされたか知らないけれど、正社員が盤石でないことはすでに証明されている。今でさえ低賃金なら、将来の保証をプラスしたら賃金がなくなってしまうよ。保証を求める前に、自分の市場価値を高めるべきじゃないか?

正社員がいいとか悪いとか、そういう話じゃない。
派遣社員が奴隷なら、正社員だって会社の奴隷だ。会社は株主のために働いているし、株主は国家に隷属している。国家もまた、強大な覇権国家の奴隷なわけで、なにかの奴隷でない人など、地上には存在しない
正社員になればすべて解決と思うのは、安易すぎる。

江戸時代には、穢多、非人といった賎民階級があった。
その暮らしぶりを見ることで、士農工商の一般民衆たちも「自分はあそこまで悲惨じゃない」と思っていたのかもね。自分より「下」があると、多くの人は現状に文句を言わなくなるものだ。
──だから注意しなければならない。

怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。
Wer mit Ungeheuern kämpft, mag zusehn, dass er nicht dabei zum Ungeheuer wird. Und wenn du lange in einen Abgrund blickst, blickt der Abgrund auch in dich hinein.

フリードリヒ・ニーチェ 『善悪の彼岸』 より

「下」に対する憐憫は、自分にこそ向けられたものなのだ。