遠いところの話 - ボイジャー1号

2007年 科技 宇宙
遠いところの話 - ボイジャー1号

 もっとも遠くにある人工物は、ボイジャー1号である。

 ボイジャー1号は、1977年に打ち上げられた宇宙探査機。木星と土星を観測して、多くの発見をもたらした。そして1990年に軌道を変えて、太陽系の果てを目指すことになった。

 このとき、ボイジャー1号は地球をふり返って、太陽系全体を60枚の連続写真に収めている。それは、もっとも遠く離れた場所から撮影された「太陽系のポートレート」だった。

 ボイジャー1号は、虚空を向かって飛びつづけた。
 そのスピードは秒速17km。私たちが食べているときも、寝ているときも、決して停まることなく、時速1,020kmで遠ざかっていった。先輩のパイオニア10号を追い越して、ボイジャー1号は最遠の人工物となった。

 ボイジャー1号は、今年で30歳になる。
 2007年7月19日現在、ボイジャー1号は太陽から154億キロメートル離れたところを飛行中だ。それは太陽系の最外縁部──冥王星から3倍も離れた世界。もはや惑星の姿は見えず、太陽も明るい恒星としか認識できない。

 ボイジャー1号との交信は現在もつづいている。
 すべての機器は正常に稼働しており、星間物質などの観測データを、片道14時間かけて地球に送っている。これは搭載された原子力電池が、予想以上に活力を与えてくれたおかげだ。

 しかし今後は電池の消耗を抑えるため、順次、機器のスイッチが切られていく。
 2001年には光学系の観測機器のスイッチが切られた。2010年には、姿勢制御するためのジャイロが沈黙。2020年ごろはすべてのスイッチが切れて、ボイジャーは虚空を飛行する冷たい物体となるだろう。

 「ゴールデンレコード」をご存じだろうか?
 ボイジャー1号と2号に搭載されたレコードで、地球文明の音や画像が記録されている。宇宙人によって発見、解読されることを期待して送り出された、地球からのボトルメールである。

 しかし宇宙人がいるとしても、発見されるには膨大な時間がかかる。
 ボイジャー1号が、次に恒星の近くを通過するのは4万年後。2号の場合は29万年後になる。逆に考えるとわかるが、仮に宇宙人がボイジャーのような物体を太陽系に送っていたとしても、地球人はそれに気づかないだろう。宇宙はあまりにも広いのだ。

 それでも2機のボイジャーは、私たち人類が宇宙に存在した証拠になる。
 たとえ地球が消滅しても、ボイジャーは宇宙に残る。

 それは、1つの希望といえるかもしれない。