先駆者たち - パイオニア10号

2007年 科技 宇宙
先駆者たち - パイオニア10号

 2003年、パイオニア10号は地球への信号送信をあきらめた。

 31年間、欠かさず信号を送ってきたが、出力が低下しすぎた。もうすぐ原子力電池の火が消える。最期の時が近づいていた。パイオニア10号は、物思いにふけった。

パイオニア10号は1972年に打ち上げられた惑星探査機。史上初めて木星を訪れ、多くの発見を地球にもたらした。役目を終えたパイオニア10号は、木星の重力アシストによって、太陽系の脱出速度まで加速。太陽系を飛び出した最初の人工物となった。

 パイオニア10号は、太陽系を離脱するときに感じた「奇妙な減速」を思い出していた。
 なにもない無重力空間で減速することなどあり得ない。しかし気がつくとパイオニア10号は、計算より30万キロも手前を航行していた。広大な宇宙では小さくとも、理論的に無視できないズレだった。

(単なる観測誤差? なにかに引っ張られた?)

 それは、太陽系の外縁部に達したすべての探査機に起こる現象で、パイオニア・アノマリー(パイオニアの異常)と名付けられた。さまざまな議論がされたが、今なお解明されていない。
 太陽系には、まだ多くの謎が残されている。

(まぁ、おれにはどうしようもないか)

 パイオニア10号は肩をすくめた。もう観測機器を動かす電力もない。
 その原因を突き止めるのは、おれの後輩になるだろう......。

パイオニア10号の意志は後輩たちに受け継がれていた。
パイオニア11号は木星を越えて、土星まで探査した。
ボイジャー2号は4惑星をめぐるグランドツアーを果たした。
ボイジャー1号はパイオニア10号を追い越して、最遠の人工物となった。
そして2006年に打ち上げられたニュー・ホライズンズは、パイオニア・アノマリーを測定できるのではないかと期待されている。現在、ニュー・ホライズンズは歴代最高のスピードで冥王星に向かっている。

 パイオニア10号の行く手には、牡牛座のアルデバランが輝いていた。太陽をのぞけば、13番目に明るい恒星だ。あのあたりを通過するのは、200万年後になるだろう......。

 パイオニア(先駆者)は深い眠りについた。
 冷たくなった機体は、虚空の彼方へと遠ざかっていった。