裏切りのカツカレー

2007年 生活 日常
裏切りのカツカレー

なにを隠そう、私は人を食事に連れていくのは苦手だ。

「ヒラさんの おすすめの店に連れてってよ♪」とか言われると言葉に詰まる。情報として教えるのはいいが、一緒に行くのは避けたい。なぜなら、その人が私と同じように感動できるとはかぎらないからだ。
そう思うようになった1つの事件があった。

──私が20代前半だったころの話。
当時の私は今以上に味のわからぬ男だったが、それでも秋葉原で食べたカツカレーはお気に入りだった。

めちゃめちゃ美味というわけじゃない。
ただ、特徴のないルーと、衣が厚いカツ(肉は薄い)のバランスがよかったのだ。衣を食べるカレーだった。
高い金を払わずとも、うまいものは喰える
その一例として紹介すると、友人が食べたいというので、連れていくことにした。

店は満員だったので、私たちはカウンターの離れた席に座った。
運ばれてきたカツカレーを食べてみると、おいしくない!
ルーはさらさら、カツはふにゃふにゃ。バランスによって成り立っていた味だから、それが崩れてしまえば評価すべき点もない。気だてのいいブサイクが、性格まで悪くなったようなもんだ。どうしようもない。

(......しまった。こんな店に連れてきて申し訳ないなぁ)
悔やみながらカツカレーを平らげ、私は店を出た。
あとから友人が出てきて、言った。

「いやぁ、うまかったね!
 さすが、ヒラのお気に入りだけはあるよ」

目の前が暗くなった。
「そんなはずないだろ! 味は格段に落ちていたよ。
 こんな店に連れてきて、ごめん!」

しかし友人は自説を曲げなかった。
「そんなことないよ。おいしかったよ。
 安っぽいけど、バランスがよかったんだな。
 ヒラは気に入らなくても、おれは気に入ったね」
私は言葉を失った。

想定される原因
  1. 友人は私に気を遣って、マズイものをウマイと言ってくれた。
  2. 友人は味音痴で、本当にウマイと思っていた。
  3. 店の味は同じだが、私の味覚が変わった。
  4. 私の皿だけ失敗作だった。

味覚なんて主観情報だから、比較しようがない。
過去にうまかった店が、今もうまい(と感じる)とはかぎらない。
「おいしい」は一期一会なのだ

というわけで、私は人を食事に連れて行くのは苦手だ。
そのくせ、私はよく訊ねる。

「ねぇ、キミの おすすめの店に連れてってよ♪」

関連エントリー