黄金の鎖
2008年 政治・経済 男と女 N氏
とある旅人の話をしよう。
その旅人は生まれながらに自由だった。どこへでも行けるし、なんにでもなれた。ところが旅人は、自分で自分を鎖につないでしまった。旅人は規則正しい暮らしをはじめ、自分の畑をせっせと耕した。気まぐれに休んだり、釣りに行くこともない。まるで別人だ。
奇妙に思った私は、訊ねてみた。
「ねぇ、そんな鎖は捨てて、また旅に出ようよ」
旅人は答えた。
「これは鎖じゃないよ。ぼくの大切な黄金だ。ほら、大きくて、ずっしり重たいだろう? すっごく価値があるんだぜ」
「ただの鉄だよ!」
「きみには価値がわからないのかい? コドモだねぇ。早く大切なものを見つけて、オトナになりなよ」
私は怖くなって逃げ出した。
友人N氏は風来坊だった。ひとつの職場に長居せず、ふらふら流れながら暮らしていた。そんなN氏が突然結婚して、子どもが生まれ、持ち家を購入してから数年が経つ。N氏はすっかり別人になって、まじめにサラリーマン的生活を送っている。さぞや窮屈だろうと思ったが、むしろ今の方が「働きがいがある」と言う。家族のためならどんな我慢もできるらしい。信じられない。別人になってしまった。
私は結婚しているが、子どもも持ち家(ローン)もない。
自分を束縛する鎖はまったくない。
私は自由だ。自由、バンザーイ!
だがしかし……と思う夜もある。
黄金の鎖があれば、シアワセになれるのだろうか?