[小説] 藪の中 / いくら考えてもわからない
2008年 娯楽 創作 小説芥川龍之介の『藪の中』を読んだ。
著作権が切れているので、青空文庫で読めた。『羅生門』の名前で映画化され、「真相は藪の中」という表現の由来となった短編だが、実際に読むのははじめて。簡単に述べると、こんな話。
『藪の中』あらすじ
平安時代、藪の中で1人の男が殺された。検非違使が発見者、目撃者、加害者、被害者など7人から証言を聞くのだが、どれも食い違っていて筋が通らない。結局、誰が殺したのか、どうして証言が食い違うのか、作中では明らかにされないまま終わる。
- 木こり ... 藪の中で男の死体を発見した。縄と女物の櫛を見つけるが、馬や刀は見ていない。
- 法師 ... 事件が起こる前日に、男と馬に乗った女を見た。
- 放免(刑吏) ... 馬から落ちた盗賊・多襄丸(たじょうまる)を捕獲した。女は見ていない。
- 女の母親 ... 殺された男と女は夫婦であることを明かす。女は見ていない。
- 盗賊 ... 女をレイプした後、成り行きで男を殺してしまう。女は逃げた。
- 寺で見つかった女 ... 醜態を見られたため、夫を殺す。後を追うつもりが死にきれなかった。
- 殺された男(死霊) ... 妻が盗賊となれ合ったのを見て、世をはかなみ自刃する。
創作物なので、ちゃんと事実関係が設定されている保証はない。ましてや著者は81年前に自殺してるから、今さら真相を明らかにする方法はない。それでも興味がわいたので、自分なりの推理を立ててみた。
もっとも筋が通るのは盗賊の証言だ。この証言を軸に据えると、殺された男(死霊)の証言が浮いてしまう。死霊が事実を見まごうだろうか?
7人全員が真実を述べているなら、男は3回殺されたことになる。それは奇妙だから、事実誤認があるはずだ。証言を変えずに組み替えると、こうなる。
仮説
(5)盗賊が女を襲う→(5)恥じた女が「男を殺して」と盗賊に言う→(7)男がそれを聞いてしまう→(6)男が女に「自分を殺せ」という→(6)女は男を刺すが、急所を外れる→(6)女が気を失う→(5)盗賊が男と決闘する→(5)女がいなくなる→(5)盗賊が男を刺すが、急所を外れる→(5)盗賊が去る→(7)目が覚めた男が自刃する。
なんとなく筋が通りそうだが、不自然な点が多い。男は自殺以外では死なない妖怪だったのか。それに女が逃げ出すタイミングも合わない。事実誤認ではなく、ウソが混じっていると考える方が自然だろう。
では、誰がウソをついているのか? もっともウソをつきそうなのは女だが、「レイプされ、夫を殺しました」と証言するメリットがない。それを言ったら、捕縛され(おそらく死刑となる)盗賊にも、死んでしまった夫にも、ウソをつく理由はない。
それでも疑うなら、全員がウソをついている可能性もある。こうなると推理ではなく想像になるから、収拾がつかない。たとえば盗賊と男は双子で、殺されたのは盗賊の方だったとか、死体を確認した老婆は金で雇われた役者だったとか、なんでも言える。8人目の証言でもなければ、八方ふさがりだ。
なにかありそうなんだけど、どう考えてもピースが余ってしまう。
そう考えると、よくできた話だなぁと感心する。まさに真相は「藪の中」だ。