[漫画] ブラック・ジャック / 何度も何度も読み返す
2008年 娯楽 マンガ 医療 考察もっとも好きな手塚漫画は、『ブラック・ジャック』である。
1973年から連載され、封印されたエピソードを含めると、全242話が発表された。
当時、手塚治虫は落ち目の漫画家で、その末期を飾る思いで『ブラック・ジャック』は連載された(そのため過去の手塚キャラが総出演している)。しかし一話完結のスタイル、医学漫画の斬新さ、奥深いストーリーが受けて大ヒット作に成長する。
『ブラック・ジャック』がなければ手塚治虫の復活はなく、のちに漫画の神様と呼ばれることもなかっただろう。
◎
『ブラック・ジャック』との出会いは小学3年生のとき、散髪屋に単行本が置いてあった。
内蔵の描写がグロテスクだったけど、すぐ夢中になった。しかし散髪屋の本棚は巻数が揃っておらず、落ち着いて読むこともできない。当時、私の小遣いは月に40円だったので、自分で買うなんて考えられなかった。
25歳。社会人になって、ようやく文庫版16巻セットを買った(のちに17巻を追加)。本屋でポップをつけてもらった。感無量だったね。もう10年以上経つけど、今でも読み返している。
私の好きなエピソードは、こんな感じ。
- ふたりの黒い医者
- 有名なエピソード。階段でのヤリトリが強烈すぎる。
- ハリケーン
- この枚数に、これだけのドラマを詰め込めるなんて!
- 灰色の館
- 絶望的な兄と妹に、BJも命からがら逃げ出す始末。
- 三度目の正直
- 関係した患者は最後まで診ようとするBJの執念がすさまじい。
- 青い恐怖
- 漁師の息子が大きな貝に足を挟まれる。こわかった。
- 研修医たち
- 生意気な研修医たちを見守るBJと医長。これが師というものか。
- 湯治場の二人
- 刀鍛冶・馮二斉を訪ねたBJと琵琶丸。やるせない眼差しのBJに心打たれる。
- されどいつわりの日々
- 安直な展開と思いつつも、もろもろひっくり返された傑作。
- 助け合い
- 恩人を助けるため奔走するBJ。その義理堅さは驚異的だ。
- 浦島太郎
- 鉱山事故で眠りつづける少年を目覚めさせる。重要なことを見落としたBJとキリコ。
- ピノコ愛してる
- 暗がりで悔しがるBJに、声をかけず思いを寄せるピノコに、救いを感じる。
- 上と下
- 肩を組み去っていく2人を、車から見送るBJがよかった。
- 死への一時間
- BJとキリコが協力する話。手術を終えた2人は親友同士のように。
- 六等星
- 目立たないが腕のいい医師を推薦するBJ。ピノコのひと言が花を添える。
- 笑い上戸
- 笑えなくなった友人を手術するBJ。末期の笑いに涙する。
- ある老婆の思い出
- 童話になりそうなストーリー。BJは脇役なのに、その言葉は印象的。
- 人生という名のSL
- 連載最終回。BJと出会い、別れた人たち。ピノコへの思いが胸に残る。
何度も実写化、アニメ化されているが、最近のBJは超然としたヒーローっぽくて好きになれない。漫画のBJをよく見ると、かなり傲慢で、偏った性格である。誰を助け、誰を見殺しにするか、気まぐれに決める一方で、助けると決めた相手はなにがあろうと助ける。一種の異常者だ。
それでいて庶民的で、ドジも多い。手術がなければ、ちょっと偏屈なお兄さんだ。このギャップがBJの魅力だと思う。
◎
大ヒットした本作だが、医学的な誤りや人種差別を問題視する声も多く、手塚治虫の心労も大きかったようだ。そのせいか連載後半は病気より怪我の治療が多くなる。
手塚治虫の神経がもっと図太ければ、もっと多くの作品が発表されたかもしれないが、そんな手塚治虫だからこそ書けた作品だと思うと、なんともやるせない。
ともあれ『ブラック・ジャック』は、私に大きな影響を与えた作品の1つである。