タイタニックへの警告
2009年 社会 考え事聞く耳を持たぬ者には、千の警告も意味をなさない。
1912年4月14日、豪華客船タイタニックは北大西洋で氷山に衝突、わずか3時間足らずで沈没した。乗員乗客1,513人が犠牲となる世界最悪の海難事故となった。
なぜ、タイタニックは氷山にぶつかったのか?
まず、見えていなかった。
収納ロッカーの鍵をもった乗員が退船してしまい、双眼鏡を取り出せなかった。そのため乗員は、肉眼で周囲を見るしかなかった。氷山と衝突したのは、深夜だった。
そして、聞いていなかった。
当該海域に危険な流氷群があることは、無線通信で警告されていた。その数は6回におよぶが、すべて無視された。7回目の警告は、「うるさい!」と怒鳴って切ってしまった。通信士は乗客の電報業務に忙殺されており、流氷の警告は取るに足らないものと扱われた。
もしかしたら、危険を訴える乗員がいたかもしれない。
「双眼鏡がないなら、スピードを落とすべきだ!」
「スピードを落とせないなら、目をこらし、耳をそばだてないと!」
「それも駄目なら……」
やるべきことが多い船内で、直面していない問題を指摘する乗員がどのような目で見られたかは、想像に難くない。つまるところ彼の正しさは、氷山に衝突するまで証明されない。そして、そのときはもう手遅れなのだ。
◎
「危険があったら、アラートをあげてね」とよく言われる。
アラートをあげるのは簡単だが、それを理解させるのは難しい。ネガティブな報告は聞きたくないという相手なら、なおさらだ。私の言い方が悪いのかもしれないし、取るに足らないことで騒いでいるだけかもしれない。
遠くに見える影が、ただの蜃気楼であることを願うばかりだ。