おれが出会った強者たち(1/3) ワールド

2009年 娯楽 おれが出会った強者たち ゲーム
おれが出会った強者たち(1/3) ワールド
突然だけど、思い出話をする。90年代にブームになった対戦格闘ゲームの話だ。かなり個人的な、そして特殊な話題なので、わからない人はわからないだろう。登場人物を理解できるマイミクは2人しかいない。なお、私は初心者に毛の生えた程度の腕前なので、いろいろ誤解している可能性があることを、あらかじめお断りしておく。

ゲーセンで、こいつはすごいと思った強者(つわもの)が3人いる。

1人目がワールド。ワールド級のチャンピオンという意味らしい。本名不明。当時、ゲーセンにたむろしていた人たちは、互いにあだ名で呼び合っていたから、素性の知らない友人・知人が多かった。私とワールドも知り合いではなく、周囲が「ワールドが来た」と騒ぐので、そのプレイを何度か見ただけ。それは驚異的な戦いだった。

ワールドはナッシュ使い。説明するまでもなく、以前はガイルを使っていた。究極的な待ちスタイルで、スタート直後に画面端っこに移動すると、技のコマンド以外でレバーが前に倒れることはない。ソニックブームを連発して、飛んできた敵をサマーソルトで落とす。要するに、相手のミスを待つだけ。単純かつ有効な戦法だが、単純すぎるから、徹底できる人は少ない。

あるとき、ワールドのナッシュが、どこぞのザンギエフと対戦していた。
がっちり守っていても、ダメージは蓄積する。気がつけば、ワールドの体力は3分の1を切り、タイムも残りわずかだった。しかしそれでも、ワールドは決して前に出ない
やがて、ザンギエフの方がじれて、攻撃してくる。時間切れで勝っても楽しくないからだ。やや粗い攻撃を、ワールドは見逃さなかった。サマーソルト一閃。うまくコンボが決まって、あとちょっとで勝てるところまで盛り返した。なのにワールドは画面端っこに移動して、ふたたび待ちスタイルに。
反撃するザンギエフ。的確な攻撃に追い詰められるワールド。終わったと思ったとき、さくさくっと蹴りが入ってワールドが勝った。その場にいたゲーマー全員がうなる名勝負だった。

負けそうでも、イチかバチかの賭けをしない。
あとちょっとで勝てるとしても、欲張らない。

ハッキリ言って、かっこいい勝ち方じゃないけど、その精神力に敬服させられる

対戦格闘は、あるレベルに達すると個性のぶつかり合いになる。
攻撃も防御も研究され尽くされ、最善の手はなくなる。すると相手の読みを外し、ミスをさせる駆け引きが重要になるのだが、この駆け引きをぶちこわすのが個性なのだ。
もしワールドに勝ちたいなら、1ドットでも優位になった時点で、ただ待っていればいい。おそらく時間切れで勝てるだろう。だが、それで満足できるゲーマーはいない。ゆえにワールドが君臨している。恐るべし強者たちの世界。

対戦格闘ゲームのおもしろさは、ゲームによって引き出されるゲーマーたちの個性にあったと思う。