同姓同名を検索 / きみはぼくに似ていない

2009年 科技 デジタル
同姓同名を検索 / きみはぼくに似ていない

自分の名前をGoogle検索すると、同姓同名の人物が何人か見つかる。

同姓同名だから、すごく奇妙な感じがする。
便宜上、私の本名を「ヒラ太郎」とすると、こんな感じ。

  • 専門書を執筆したヒラ太郎
  • 高校中退して、仕事を探しているヒラ太郎
  • 町工場を切り盛りしているヒラ太郎
  • 通信教育を受けているヒラ太郎
  • ブログを投げっぱなしにしているヒラ太郎

何人かは顔写真をさらしている。当たり前だが、私とは似ても似つかないし、背格好も、年齢のバラバラ。なのに強い親近感を覚える。まるで、パラレルワールドの自分を見ているようだ

じつは97年に、同姓同名の人物からメールが届いた。まだ2400bpsモデムでダイアルアップしていた頃の話である。

ヒラ太郎さま
突然ですが、あなたと同姓同名のヒラ太郎と申します。
あなたのホームページを拝見しました。
友だちになりませんか?

当時は個人情報を気にする風潮もなく、みんな本名も顔も丸出しだった。

興味を覚えた私は、即座に「ヒラ全国会」に加入した
すでに同姓を探すグループが形成されており(私の苗字は、そこそこ珍しい)、その中の1人、つまり「ヒラ太郎」が、同姓同名の私にコンタクトしてきたわけだ。
全国会と言っても、総勢15、6人くらいだったかな? 熱心な人もいれば、そうでない人もいる。メーリングリストがなかったので、全員をCc:に入れて連絡を取り合っていた。同姓ばかりだから、互いの呼び名がややこしい。

東京のヒラさんへ
愛媛のヒラより
山梨のヒラさんが住所録を作っているのですが、質問がありまして……

わざとややこしく書くのも楽しかった。
しかし仕事が忙しくなると、かまっていられなくなった。そもそも同姓の人を集めただけのグループだから、話題がない。気がつけば、全国会のページはNot Foundになっていた。メールアドレスも大半は死んでいるか、あるいは返事がない。
──遊びは終わったのだ。
いま思うと、モッタイナイことをした。私がサイト運営していれば、関係を失うこともなかったのに。あのころmixiがあれば、コミュニティとして存続できたかもね。

今は私も本名を隠している。だからネット上で見つかる「ヒラ太郎」たちが、私の存在に気づくことはないだろう。そして私も、ネット上で見つかる「ヒラ太郎」の中に、私にメールを送ってきたヒラ太郎が含まれているのか、まるでわからない。覚えているのは名前だけだから。

あなたと同姓同名のヒラ太郎と申します。

ふと、同姓同名の相手にメールを送りたくなる。
ここにいるよ。そう伝えたいような、伝えたくないような……。