プロメテウスの金融工学

2009年 政治・経済 NHK
プロメテウスの金融工学

これから金融工学は、どのように進化していくのだろう?

100年に1度と言われる金融危機は、金融工学が原因だと言われている。しかし金融工学が悪いのではなく、その取り扱いを間違えただけという反論もある。ともあれ、この失敗を糧に、金融工学はさらなる発展を遂げるだろう。では、なにが失敗だったのか?

NHKの番組は、金融工学は人の心を計算できていなかったと指摘する。言い換えるなら、金融工学は「金融工学が影響する市場」を予測できなかったわけだ

実際の例を見ると、CDSを開発したJPモルガンは、住宅ローンにCDSを適用することのリスクに気づき、撤退した。しかしJPモルガンが撤退したことで、リーマン・ブラザーズなど多数の証券会社が参入し、結果としてサブプライム・ローンは市場にあふれかえってしまった。
もしJPモルガンがCDSのノウハウを秘匿していれば、市場が暴走することもなく、金融危機も回避できたかもしれない。

たとえ話をしよう。
ある優秀な占い師が、「Aさんは90%の確率で車にひかれる」と予測したとする。このまま放っておけば90%の確率で実現するが、Aさんに占い結果を伝えると、Aさんは車に注意しながら生活するので、的中率はがくんと下がる。 さらに占いノウハウが流出して、「Aさんを車でひく人」や「その車を整備する人」まで占い結果をふまえて行動すると、Aさんが車にひかれる確率はかぎりなく0になる。
こうなると占いが成立しない。
その結果、大災害を予見できなくなったとしたら、なにを反省し、どうするべきだろう?

おそらく金融工学は、社会心理学や大災害(カタストロフ)の可能性を取り込みながら発展するだろう。しかしより重要なことは、金融工学の知識を流出させないことだ。強力な科学知識を世俗に広めても、ろくなことはない。

プロメテウスが「火」を与えたことで、人間は煮炊きを覚えた。と同時に、戦争もはじめてしまった。時計の針を戻せるなら、プロメテウスは「火」を与えなかったかもしれない。あるいは、「火」より重要なものは隠されたのかもしれない。

科学はますます進化するだろう。
しかしその恩恵に、いつも浴せるとはかぎらない。

※写真は心理歴史学者 ハリ・セルダン

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