[特撮] でもディケイドが好き

2009年 娯楽 特撮 特撮:ディケイド
[特撮] でもディケイドが好き

世界の破壊者ディケイド、その瞳はなにを見る──

前代未聞の最終回だったけど、『ディケイド』をきらいになったわけじゃない。ほかの仮面ライダー作品、あるいは特撮番組、SF映画と比較しても、その魅力は群を抜いている。
ハッキリ言おう。『ディケイド』はおもしろかった
だから毎週楽しみにしていたし、おかしな点には真剣に突っ込んだ。あの興奮した日々に、ウソはない。

私は夏の劇場版を見てないし、冬の完結編も見に行かないだろう。そして数年後に、DVD(あるいはBru-ray?)で観賞するはず。その日まで、今日の気持ちを残しておくために、いまの感想を記録しておく。

【警告】
仮面ライダーディケイド【全31話】を見てない人は、ここで読むのをやめるように。

万能だが居場所がない主人公 - 門矢 士(かどや つかさ)

士(=ディケイド)は破天荒な主人公だった。記憶喪失なのに、なんでも知っている。あらゆるスキルをもち、戦闘も強い。そのくせ性格は尊大で、独りよがりで、いい加減。女性を殴ったり(第2話『クウガの世界』)、仲間を足で蹴ったり(第20話『ネガ世界の闇ライダー』)、子どもを馬鹿にしたり(第28話『アマゾン、トモダチ』)と、特撮ヒーローとしては失格としか言いようがない。私も最初は、嫌悪感が強かった。

しかし見つづけると、だんだん好感がもててくる。ときおり見せる優しさは、旧来のヒーローのような無差別なものではなく、群れからはぐれたり、祝福されずとも、誰かのために戦う者に限定される。ゆえに理解者が現れれば、士は興味をなくしたように去っていく。たとえるなら、迷子には親切だが、親が現れたら突き放すようなもんだ。そして彼自身が迷子であることを考えると、その姿が意味するところは深い。

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※ちゃらんぽらんな主人公

さまざまな世界をめぐり、士の仲間は増えていく。それが目的ではなかったにせよ、彼なりにうれしかったはず。しかしライダー大戦が勃発すると、士は仲間たちに非難される(第30話『ライダー大戦・序章』)
「それは自分の世界がないから言えることだ!」
「まして自分が何者かさえもわかっていない!」
それを言っちゃあ、おしまいだ。海に岩が沈んでいくように、静かに憤る士。その怒りは仲間や敵勢力ではなく、自分自身に向けられていた。

そして明かされた、士の本当の役割(第31話『世界の破壊者』)。こんなデタラメな世界で、こんな残酷な役割を与えられて、まともな性格でやってられるだろうか? ちゃらんぽらんな士であればこそ、運命に立ち向かえる。世界に呪われ、仲間たちに疎まれてもなお、昂然と顔を上げる。

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※全てを破壊し、全てを繋げ!

すべてを持っているように見えて、なにも持ってなかった士。いつか彼が自分の世界を見つけたら、すべてを失ってしまうかもしれない。しかしそれでも、その日が訪れることを願うばかりだ。

大切なものを知らないライバル - 海東 大樹

大樹(=ディエンド)もまた、特撮ヒーローにふさわしくないキャラだった。口調や物腰はていねいだが、彼は世界や人々にまるで興味がない。見下しているのではなく、どうなろうと知ったことではないのだ。だから怪物が社会を支配しようとしても傍観していたし(第9話『ブレイドブレード』)、なんの理由もなく士を殺そうとした(第12話『再会 プロジェクト・アギト』)こともある。
怒りも哀しみもなく引き金をひける男。それがディエンド、海東大樹だった。

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※少しずつ感情を取り戻していく大樹

大樹はなぜ、「お宝」を追い求めるのだろう? 手に入れるために努力はするが、手に入らなくても執着しない。「お宝」とはつまり、価値あるもの──大切なものだ。管理社会から弾き出され、血を分けた実の兄に洗脳されかけた大樹には、この世のすべてが嘘っぱちに見えるのだろう(第23話『エンド・オブ・ディエンド』)
「お宝」を追っているときだけ、大樹は生きていられるのかもしれない。

大樹が追っていたのは「お宝」ではなく、大切な「なにか」だった。いろんな世界を旅するうちに、人々がもっとも大切にするのは「仲間」であり、自分には仲間がいないことに気づく。最終回で、士に「世界をくれてやる」と言われても、興味を持てない大樹。つまり世界より大切なものを見つけたのだ
このあたりの描写が足りないのは、じつに惜しい!

大樹は、士に劣らぬほど魅力的なキャラクターである。この2人の物語は、生きることに価値を見いだせない若者へのメッセージになっている。

駆け足の世界めぐり - リ・イマジネーション

もともと『ディケイド』は、放送サイクルを半年ずらすために考案された企画だった。なので31話と短い。この31話で平成ライダー9つの世界を描くと思っていたが、後半はシンケンジャーや昭和ライダーの世界も巻き込んで、話はどんどん拡大していった。各エピソードは時間が足りず、ドラマも十分に描かれていない。だけど、すんごくおもしろいのよ。

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※どの世界も魅力的だった

『ディケイド』放送中は、マイミクの7CEさんと毎週、激論を交わしていたが、「つまらない」と嘆いたことはなく、「もったいない」を連呼してばかりだった。どの世界もじつに魅力的で、2話で通り過ぎるのはもったいない!!!

途中で方針が変わった?

理想的には、平成ライダー9つの世界の問題をいったん完結させてから、昭和ライダーの世界に突入してほしかった。それなら最後の5秒で、「世界は9つだけじゃない」と言っても文句はない。これは私の想像だが、『ディケイド』のストーリー構成は途中で変わったのではなかろうか? 予想外に盛り上がり、このまま半年で終わらせるのは惜しいと考えた制作サイドは、テレビシリーズで物語を完結させることを放棄して、昭和ライダーの世界を盛り込んだ。途中でメイン脚本家が降板したのも、その証左であろう。

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※謎は明かされるのか

人気は水ものだから、へたに完結させちゃうと、ファンが離れてしまうかもしれない。後番組をずらすのも難しい。だったら謎を明かさず、世界観を広げまくった方がいい。そう考える気持ちもわからなくもないが、制作サイドの都合と、観客の気持ちが一致することは少ない
こうして前代未聞の最終回が生まれたと思えば、得心できる。

終わらなかった旅

第19話『終わる旅』で、士たちは平成ライダー9つの世界をめぐり終えた。しかし物語は終わらず、最終回になっても拡張をつづけた。はてさて、これからどうなるんだろう?

『電王』のように、次のライダー、次の次のライダーが出てきても劇場版が制作される長寿番組になるのだろうか? ときおり特番を組んで、いろんなライダーと競演するのも悪くない。悪くはないが、旅の終わりも見てみたい。いつまでも謎が明かされず、いつまでも旅をつづけていると、そのうち飽きられ、立ち消えになってしまう。そうなる前に、きちんと終止符を打ってほしいのだが......。

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※どうなる!?

これまでにも人気が高く、継続を期待された仮面ライダーもあった。しかしスポンサーは冷酷に1年で終止符を打って、次の仮面ライダーを提供してきた。それが鉄則だった。『ディケイド』という番組は、この鉄則を破壊したのかもしれない。

それがどういう意味をもつのか、今はまだわからない。