タスポ導入効果 / 対面販売の難しさ
2009年 政治・経済 タバコ 犯罪 社会
「申し訳ありません。お売りできません」
十数年前のこと、津田沼駅でぼんやり人を待っていたら、背後から女性の声が聞こえてきた。ふりむくと、タバコ屋のお姉さんが、「ライターを買いたい」という客を断っているところだった。客は、「なんで?」「そこにあるじゃん」と食い下がるので、お姉さんは身を小さくしながら、理由を述べた。
「未成年の方にはお売りできません」
指摘されてはじめて、客は、自分が学生服を着ていることに気づいたようだ。「あぁ、そうか」とつぶやき、高校生は去っていった。あの高校生はタバコを買ったり、吸っているところを注意されたことがないのか? それとも単純に馬鹿なのか......。
それにしても、対面販売は大変だな、と私は思った。
高校生が求めていたのはライターであって、タバコじゃない。高校生にライターを売ってはいけない法律はない。なのにお姉さんは、(タバコを吸うための)ライターを売らなかった。惚れちゃいそうなほど、立派な女性だった。
「タスポ」で苦境のたばこ店、未成年への販売多発(読売新聞 - 11月30日 16:23)
未成年者の喫煙を防ぐため、自動販売機で成人識別をするICカード「タスポ」が全国で導入されて、ほぼ1年半。
京都府内では、未成年者にたばこを売った店主らが未成年者喫煙禁止法に基づいて摘発された件数は、昨年の0件から一変、今年は10月末時点で17件へと急増している。なぜ、違法な販売が多発するのだろうか。
ニュースによると、その理由は下記のとおり。
- タスポ導入によって、自販機の売り上げが激減した。
- 対面販売に力を入れようにも、(老人ばかりで)体力的に厳しい。
- 成人はコンビニへ行くので、タバコ屋に来るのは未成年者ばかり。
だから未成年者と知りつつ売ってしまう。すると、「あの店ならタバコを買える」と評判になり、いっせいに標的にされる(=客が増える=儲かる)。府警は、「いくら経営状況が苦しくても、違法行為は許されない」とし、今後も厳しく取り締まる考えだ。
◎
売れば利益になるのに、法で禁じられている。ある意味、タバコの自販機は、モラルを保ちつつ売り上げを高める道具だったわけだ。その道具が失われて、モラルを問われるようになった。タバコ屋も大変だな。
やれ法律だ、やれモラルだと言うのはいいが、面と向かって正義を実行するのは難しい。そもそも府警が取り締まるべきは、タバコ屋でなく、喫煙する未成年者であろう。
余談だが、(民間人の)駐車監視員を導入したもの、(警察官が)ヤクザの車を取り締まるプレッシャーから逃れるため、という見方もある。そのくらい対面は大変なのだ。
ニュースを見て、ふと思ったことを記録しておく。結論はない。