神経都市

2010年 社会 孤独 社会
神経都市

未来の住民管理を想像してみた。

現状の戸籍制度は、高いモラルと事故のない運用を前提にしている。なので「消えた高齢者」という珍妙な問題が起こっているわけだが、プライバシーや法整備の遅れもあって、調査さえ難航している(注:プライバシーは生存している人間にのみ発生するので、静止の確認は、その侵害に当たらない)。
このままでいいわけがない。年金の一元化や徴税の円滑化といった問題もあるから、住民管理がほどなくデータベース化されるだろう。

役人が各家庭をまわって、1人ずつ生存確認するのは手間だ。しかし運転免許のように、数年ごとに更新するのも面倒。そこで、ネットワークを介して遠隔認証できるようにする。装置を小型化できれば、歩きながらでも更新できる。装置をなくしたり、ネットが通じないところに閉じ込められていたり、意識不明だったら更新できないが、それはそれで「捜索」の対象になる。つまり当人の生存だけでなく、安否をモニタリングできるわけだ。

プライバシーを気にする人は多いだろう。しかし得られるメリットは大きい。
たとえば、高齢者のバイオメトリクスとリンクさせておけば、発作が起こったときの早期対応が期待できる。健常者でも、事故や犯罪にあった場合に助けてもらえる確率が高まる。住民サービスと連携させれば、逃亡犯や不法入国者の潜伏を防止できる。ごくまれなケースだが、伝染病のキャリアーを発見するのにも役立つだろう。社会保障番号と同じく、徴税や年金も管理できる。当人を生体認証しなければ使えないので、家やクルマの鍵を一元化できるかもしれない。

映画『マイノリティ・リポート』では、社会のいたるところに虹彩認証装置があって、インフラ側で当人を識別していた。ただ歩くだけで、自動的に料金が精算され、カスタマイズされた広告が表示される。映画で描かれたとおり、ふつうの人にとっては便利な、犯罪者にとっては絶望的な社会だ。
アシモフの小説『鋼鉄都市(The Caves of Steel)』では、市民1人につき1体のロボットが随伴する。ロボットは人間のマネージャーとなって活動を支援し、犯罪に対してはボディガードとなる。また太田垣康男の漫画『MOONLIGHT MILE』の月面都市にも、類型のロボットが描かれている。技術が十分に進化すれば、機械が人間を個別にサポートするのは必然なのだ。

さらにさらに進化すれば、認証チップを体内に埋め込むようになるだろう。体内にあれば落としたり、盗まれることもないし、生体情報のモニタリングも正確になる。子どもが生まれたら、即座にチップを埋め込んで、社会システムの認証を受ける。これが「出生届」になる。そしてチップからの信号が途絶すれば、それが「死亡届」となるわけだ。きわめて合理的で、無駄がない。

しかし合理性を追求すると、人間性は減ってしまうようだ。悪用や事故がないとしても、この未来図は怖いイメージがある。人間が社会で「生きている」のではなく、社会が人間を「生かしている」ような。どこがどう駄目なのか、うまく指摘できない。
社会の変化は緩やかで、明確な区切りはない。いまの社会だって、100年前の人が見たら住みにくい管理社会だろう。ゆっくり、ゆっくり変化していけば、あんがい抵抗なく受け入れられるのかもしれない。

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