[小説] ウルトラマンメビウス アンデレスホリゾント / 空想科学を愛する大人たちへ

2010年 娯楽 特撮 特撮:ウルトラ
[小説] ウルトラマンメビウス アンデレスホリゾント / 空想科学を愛する大人たちへ

朱川湊人氏の『ウルトラマンメビウス アンデレスホリゾント』を読了した。

おもしろかった。メビウスファン──とりわけウルトラシリーズが好きな大人におすすめ。というか、必読。本書は、大人だけが楽しめる空想科学アドベンチャーだった。
タイトルの「アンデレスホリゾント(Anderer Horizont)」は、ドイツ語で「もう一つの地平線」という意味。なぜドイツ語かは不明だが、よいタイトルだと思う。本書はメビウスのノベライズでも、後日談や外伝でもない。新キャラクターを加えて再構成した、もう1つの本編なのだ。

主人公はミライではなく、研修中のカナタ隊員。自信家で、現代っ子のさばけた思考をもつ彼は、すべての宇宙人を撃退したいと思っている。宇宙人に父親を殺されたカナタ隊員にとっては、ウルトラマンも潜在的な敵なのだ。
そんなカナタ隊員が、お気楽なCREW GUYSメンバーとどう接して、なにを学んでいくかが、物語の縦糸になっている。惚れ惚れするほど見事な流れだった。

著者である朱川湊人氏は、メビウス本編にも参加しており、第32話「怪獣遣いの遺産」、第39話「ひとりの楽園」、第40話「無敵のママ」の脚本を書いている。本書は、これらをオリジナル2編で挟んだ、全5話構成。
テレビエピソードは、スタート地点こそ同じだが、異なるルートをたどって、もう1つの結末を迎えている。それはとても意外で、痺れるほど感動した。これがエピソードの真の姿だったのか。

第1話「魔杖の警告」
宇宙の深淵から飛来した鉛筆型の物体。当初、それはただの隕石と思われていたが...。
第2話「ひとりの楽園」
人間の寂しさにつけ込んで同化する宇宙植物怪獣ソリチュラ。カナタ隊員は、ウルトラマンも寂しさを理解するのか興味をもつ。
第3話「無敵のママ」
サーペント星人の襲来によって、本部食堂に勤務する日ノ出おばちゃんが犠牲になった。その死を悼むCREW GUYSに、カナタ隊員は異議を唱える。
第4話「怪獣遣いの遺産」
侵略ではなく、友好を求めてやってきたメイツ星人。武力をちらつかせた外交に、CREW GUYSの神経が消耗する。
第5話「幸福の王子」
禍々しい姿で飛来した宇宙怪獣が発信した電波は、6年前に消息を絶った宇宙船からの最後のメッセージだった。

本編の脚本を書いているだけあって、キャラクター描写は素晴らしい。ミライの天然ボケも、アイハラの暑苦しさも、サコミズ隊長も軽やかさも、トリヤマ補佐官のオヤジギャグも、みんな劇中の姿と声で脳内再生されるから、びっくりさ。
そして随所にちりばめられたマニアックな情報もたまらない。

  • 人類の過ちを記録した「ドキュメント・フォビドゥン」とは?
  • 人類初のメテオールはなにか?
  • 地上の移動手段がないCREW GUYSに、整備班が用意した「車」とは?
  • 音楽が好きな海底原人と言えば?
  • そしてウルトラマンは、なぜ地球を守ってくれるのか?

「宇宙人や怪獣が出てくる話なんて子ども向けだ」と思ったら、大間違い。これほど感動と教訓を与えてくれる物語が、どれほどあるだろう?
そして本書は子ども向けじゃない。のけぞるほど、マニア向け。過去の防衛チームや怪獣の名前が出てきて、「あぁ、あれか」と思い出せない人は対象外だ。

だからこそ、ウルトラシリーズが好きだった元・少年(今・オトナ)は、必ず読むべきだ。