死んでおぼえろ、デスマーチ
2012年 科技 思考実験友人Aがデスマーチに突入したようだ。
遊びに誘ったところ、「テンパって身動きがとれない」と言われた。話を聞くと、典型的なデスマーチだった。友人Aはフリーランスなので、火消しとして臨時雇いされている。しかし正社員が火を付けてまわるため、火消しが追いつかないそうだ。んー、あるある。
(この人たちはなぜ、自分の家に火を付けるのだろう?
なぜフリーランスのおれがサービス残業してるんだろう?)
もはや無事は望めないから、被害が少ないうちに脱出できることを切に願う。
ありふれた異世界
デスマーチとは、日常にぽっかり空いた異世界のこと。そこでは常識が通用しない。「わかった」「そうしよう」「なんとかしておく」といった約束がすっぽかされ、書面で確認した事項もひっくり返っていく。「簡単な仕事」のはずが、いつまで経っても終わらない。人が増えたかと思えば、急に消えたりする。驚異のミステリーゾーン──それがデスマーチだ。
※本当のことを知りたい人は下記参照のこと。
デスマーチに取り込まれた人は、何度も繰り返し遭遇する傾向があるようだ。初回はともかく、2度目以降ともなれば、失敗の経験を活かせるはず……と思うが、そうでもない。
わかっているのに、避けられない。
それがデスマーチに怖いところだ。
経験が役に立たない
ゲームの知恵に、「死んで覚えろ」という言葉がある。
ゲーム内のトラップやボスの攻撃パターンを、初回で見切るのは難しい。死にたくはないが、死なないと得られない経験情報もある。死んで覚えたことを、コンティニューで活かすんだ。
死を軽んじているわけじゃない。アーケードなんかは金がかかっているから本気だ。本気でプレイして、それでも死が避けられないときは、投げ出したりせず、あらゆることを試してから死ぬ。そうすることで、ふつうのプレイでは気づかなかった必勝法を発見することもある。
ところが、デスマーチには「死んで覚えろ」が通じない。「次はこうしよう」「こうすればよかった」を試して、うまくいったことがない。デスマーチはけっこうワンパターンだ。どこにでもある、ありふれた異常事態と言える。原因がわかっていて、次の展開が予測できて、対処法も知っているのに、どうにもならない。どうにもならないからこそ、デスマーチなのだ。
失敗の経験を活かせると思う人ほど、デスマーチにはまる。そうじゃない。デスマーチは脱出不可能なんだ。脱出できる人はみんな脱出して、脱出できない人ばかり集まったブラックホールみたいなものだ。
脱出の余地があっても、すぐつぶされる。ブラックホールの外から、マネージャーが脱出させまいと監視しているからだ。
デスマーチの気配を感じたら、一目散に逃げろ。報酬が減ったり、評価が下がっても気にするな。デスマーチを突破したも、「あいつは火消しに向いてる」と評価され、またデスマーチに投入されるだけだ。なによりデスマーチは心を涸れさせる。デスマーチで死ぬ人はまれだが、心が折れる人は多い。だから、逃げろ。まだ間に合うのなら……。
友人Aとの電話で、そんなことを話した。
ま、当事者じゃないから、言いたい放題だ。