ウェンディ・マッドネス / ピーターパンが魔王になったら

2012年 娯楽 娯楽
ウェンディ・マッドネス / ピーターパンが魔王になったら

 ディズニーのアニメ映画『ピーター・パン』(1953)を見た。

 恥ずかしながら、私はこの歳まで『ピーター・パン』の物語を知らなかった。名前や姿は知っていても、どんな話か知らないって、あるよね? 子どものころ、もっと多くの絵本を読んでおけばよかった。
 40歳過ぎて鑑賞する『ピーター・パン』は……格別な味わいがあった。以下、作品を見ている前提で話す。

ピーターパン症候群(Peter Pan Syndrome)

 ピーター・パンは気まぐれで、乱暴で、忘れっぽい悪ガキだった。彼の娯楽は、ロストボーイズと徒党を組んで、飛べない大人たち(インディアンやフック船長)をいじめること。ウェンディを招いたのはガールフレンドとしてではなく、「お母さん」になってもらうため。もうね、徹底的に子どもなのだ。
 その奔放さは魅力的だが、毒がある。私はピーター・パンに対して、あこがれより恐怖をおぼえる。ピーター・パンは大人になれないのではなく、ならない。なろうと望むこともない。それはまるで呪いのようだ。

ウェンディ・ジレンマ (Wendy Dilemma)

 映画の冒頭、ウェンディは両親に大人になれと言われて反発する。ところがネバーランドでの冒険が一段落つくと、いきなり「帰って大人になる」と言い出す。ピーター・パンは驚くが、私も驚いた。いつ、どうして、そうなった?
 つまりウェンディは、冷ややかな目でピーター・パンやフック船長を観察していたのだ。大人になるとは、身体が大きくなることじゃない。ウェンディは、成長しない連中に愛想を尽かし、別れを告げたのだ。そうとしか思えない。
 あるいは、「お母さん」の役割を押しつけられることを疎んだのかもしれない。ウェンディは最初からキスにあこがれていた。つまり性の目覚めだ。ところがピーター・パンは子どもで、自分を女性として見てくれそうにない。だから、捨てた? 早熟すぎるぜ。

不可解さも楽しい

 フック船長はいかなる存在か? ウェンディの両親はネバーランドの存在を知っていたのか? いろんな解釈が成り立つ。不可解な演出をわざと織り交ぜているように見える。
 童話だから、もっと単純なストーリーだろうと思っていたが、浅はかだった。毒のある魅力だからこそ、世代を超えて愛されてきたのだ。

ウェンディ・マッドネス

 ディズニーの続編(2002)や、実写版(2003)も見たが、毒が弱くなっている。もっと毒のあるピーター・パンを見たい。てなわけで、勝手に考えてみた──。

 成長したウェンディは、2児の母になっていた。姉のジェーンはしっかり者で、幼い弟ダニーの面倒をよく見てくれる。かつての自分を見るようだ。
 ある夜、ピーター・パンがあらわれ、子どもたちを連れ去ってしまう。自分と目があっても反応しないピーター・パンに、ウェンディは不安をおぼえる。そこにティンカーベルがやってきて、せっつかれながらネバーランドに向かう。
 そこはかつての楽園ではなく、血と錆にまみれた狂気の地獄と化していた。
 ウェンディは生きたまま切り刻まれたフック船長を助ける。首だけになったフック船長の話によると、ピーター・パンがおかしくなって、島の住人を殺戮しはじめたと言う。今やピーター・パンは魔王であり、ネバーランド全体を歪めていた。
 ウェンディは、ティンカーベルとフック船長を連れて、ピーター・パンと戦うことを決意する。
「ピーター、あんたを大人にしてあげる」
 インディアンやロストボーイズたちの攻撃は苛烈をきわめたが、母親になったウェンディも容赦しなかった。ウェンディは屍を積み重ねるようにして、先に進んだ。
 そんなウェンディの心を打ち砕いたのは、タイガーリリー(酋長の娘)が遺した言葉だった。

「ばかなウェンディ。全部、あんたのせいさ。
 ジェーンは誘拐されたんじゃない。
 自分でピーターの母親になることを選んだのよ。
 女であることを選んだあんたとは反対にね!」

 ウェンディは離婚していた。
 でもジェーンは理解してくれたはず。聞き分けのいい娘だから。
 それがこの異変と関係があるの?

 ネバーランドに……ジェーンになにがあったのか?

 うお、自分で書いてておもしろくなってきた。
 ゲームになりそう。