[特撮] ロボット刑事 / ロボット刑事に花束を

2012年 娯楽 特撮
[特撮] ロボット刑事 / ロボット刑事に花束を

 『ロボット刑事』はおもしろく、かつ残念な作品だった。

 『ロボット刑事』は1973年(昭和48年)に放送された特撮番組。全26話。
 黄色いハンチング帽に赤いブレザーを羽織ったK(ケイ)は、一度見たら忘れられないインパクトがある。しかし例によって、私はずっと見たことがなかった。

 一気に最後まで見たが、おもしろかった。しかし多くの特撮番組がそうであるように、中盤以降はだらけ、最終回はやっつけっぽい。プロットが魅力的だから、もったいない。
 つづけてマンガも読んだけど、こちらも最終回がぶっ飛んでいた。うーん。

ストーリー

 相次ぐ不可能犯罪に対応すべく、警視庁は特別科学捜査室にロボット刑事K(ケイ)を配属させた。コンビを組まされたベテラン刑事の芝は、Kを「機械野郎」と毛嫌いするが、その分析は的確だった。
 やがて、《バドー》という組織が犯罪ロボットをレンタルしていることが判明する。Kと芝刑事は協力してロボット犯罪に立ち向かう。
 バドーは、邪魔者であるKを排除するため、その産みの親である《マザー》を標的にする。一方、芝刑事はマザーとバドーがつながっているのではないかと疑う。Kは混乱する。
 マザーとは何者か? バドーはなぜ犯罪を助長するのか? そしてKは人間の仲間として受け入れてもらえるだろうか?

バドーはロボットをレンタルするだけ

 おもしろいのは、悪の組織が犯罪を起こすのではなく、犯罪者に実行手段(ロボット)をレンタルするだけってところ。モノを盗んだり、人を殺すのは、あくまでも人間なのだ。
 しかし犯罪者は、「やったのは自分じゃない」とか「バドーに脅された」と言い逃れする。まるで「刺したのはナイフであって自分じゃない」とか「ナイフを売ってる店が悪い」と言っているようだ。ロボットを介在させることで、人間の不条理さがきわだっている。じつにSF的だ。
 ちなみにバドーの首領も、Kを作ったマザーも人間である。人間の身勝手さが渦巻く中で、Kだけが人間的だった。

ロボットの孤独

 Kの外見はごついが、その声はやさしく、とても低姿勢だ。芝刑事にどやされて、いっつも「すみません」と詫びてばかり。Kは人間を守りたいと思うが、その人間が醜悪な犯罪に手を染める。その矛盾にKは嘆き、詩を書く。恐ろしいほどの人間性だ。

「Kに恥じないだけの人間が、どれだけいるだろうか?」

 ナレーションが形容するとおり、Kほどの人格者はいない。
 犯罪捜査の道具であるKに、こころは必要ない。しかし犯罪捜査のために、人間心理を理解する機能は求められる。ここにKのジレンマがある。
 漫画版では、バドーの首領が犯罪シンジゲートを作るのに、唯一不要と判断された設計図からKが作られている。悪から捨てられたものが正義になる構図はおもしろい。

ロボット刑事

しかし、だれる

 中盤でやるべきことは決まっているのに、うまく描かれない。芝刑事はいつまでも頑固だし、バドーはみずから犯罪を犯してしまう。うーん。このころの特撮は長期的な展望を立てられなかったから、ゆるやかな変化は難しかったのだろう。
 よって終盤は急展開だ。謎は明かされるけど、駆け足すぎる。バドーを倒して、存在理由を失ったKの描写もあっさり。画竜点睛を欠く。

ロボット刑事

漫画版について

 石ノ森章太郎のマンガ全2巻も貸してもらった。テレビ版の原作と位置づけられているが、テレビ版とは異なるアプローチで描かれている。派手な戦闘シーンは少なく、よりシビアに、より陰鬱に仕上がっている。

ロボット刑事

 芝刑事になじられても、Kは犯罪者を見つけることで信頼を得ようとする。しかし人間の邪悪さは想像をうわまわり、Kは打ちひしがれる。マザーにも隠し事をされ、Kは精神的支柱を失う。やがてKは、自分を見た目で判断しない盲目の少女に恋するようになる。

 いやぁ、おもしろい。石ノ森章太郎はこういう悲哀を描くのがうまい。
 しかし石ノ森章太郎の作品の多くがそうであるように、終盤は急展開になる。投げっぱなしじゃないけど、もうちょい時間をかけてほしい。テレビ版に比べ、マザーも恋人も失ったKの「その後」が気になる。

受け継がれる魂

 『ロボット刑事』(1973)は大傑作とは言えないが、とても印象的な作品だった。その魂は、『ロボコップ』(1987)、『機動刑事ジバン』(1989)、『特捜ロボ ジャンパーソン』(1993)といった作品に受け継がれている。しかし私は、もう一度、ロボット刑事を見たい。

 とはいえ、21世紀の現代にロボット刑事を復活させることは難しい。科学技術、コンピュータの知識が普及したせいで、自立判断できるロボットはかえって現実味を失ってしまった。仮に優秀なロボットが開発できたとして、人間の行動を制限する「逮捕権」を与えるかどうか、ロボット刑事が優秀でも無能で困る警視庁が協力するかなど、解決すべき問題は多い。
 しかし現代社会は奇妙にゆがんでいるため、「完全公平なロボットに裁きをゆだねる」という展開もあるかもしれない。そう考えると、ロボット刑事の復活は不可能ではないだろう。

 だれか、リメイクしてくれないかなぁ。