奥歯をなくした日

2012年 生活 健康 医療
奥歯をなくした日

 きょう、起こったことをありのまま話すぜ。

 奥歯に違和感があったから、歯医者に行ったのさ。治療すればなおる。抜くことになっても差し歯があるだろう。そんな風に考えていたんだけど、いきなり抜いてオシマイだった。失ったモノは、もう元には戻らないのだ。

私を苦しめてきたもの

 このところ、奥歯に違和感があった。痛いような、うずくような、なにかが挟まっているような感じ。神経を抜いた奥歯だから、痛むはずがない。それに違和感の中心は歯じゃない。奥歯をさわってみると、ぐらりと動いた。か、かなり揺れる。こいつぁ、ヤバイ。

 それは、20年以上も私を苦しめてきた奥歯だった。削って、被せて、外れて、また削って......。4年前に神経を抜き取る手術を受けて、ようやく解放されたが、最後の治療は猛烈に痛かった。私は半泣きになって、もう一生、歯医者の世話にならないと誓った。
 私は念入りに歯を磨くようになったし、半年ごとの検診も受けた。が、2年もすると油断して、検診を受けなくなっていた。痛みがなかったから、つい油断していた。痛みがないから、注意すべきだったのに。

駄目なら駄目といってくれ

「これはもう、歯を残しておくことは、難しい、かもしれません」

 歯科医の説明はあいまいだった。
 問題は奥歯ではなく、顎の骨だった。奥歯を支える骨が炎症を起こして、疎になっていたのだ。すでに奥歯は抜け落ちる寸前で、となりの歯まで傾きはじめていた。

「骨が回復する可能性はないんですか?」
「かぎりなく、ないです」
「抜いたあとは、どうなります?」
「歯茎は再生力が高いので、すぐふさがります」
「差し歯とか、そーゆーのはないんですか?」
「インプラントや、となりの歯を伸ばす方法がありますが、まず骨が回復しないことには」
「抜くしかありませんか?」
「9割の医者が、抜いた方がいいと診断するでしょう」
「......」
「心の準備がつかないようでしたら、また次の機会でも」
「いえ。抜いてください」

 最近の医者は断言してくれない。
 抜くべきかどうかなんて医者に判断してほしいのに、医者は患者に決めさせようとする。そりゃ、世の中に100%はない。ひょっとしたら抜かずに済む治療法があるかもしれないし、抜いたあとで歯医者に文句を言うバカもいるだろう。だからといって、あいまいな誘導は困る。これがインフォームド・コンセントってやつか?

 たしかに、心の準備はしていなかった。治療すればもとに戻ると思っていた。まさか今日、奥歯とお別れするとは思っていなかった。しかし猶予をもらったところで、セカンドオピニオンを探す気力もない。いいさ。抜いてくれ!

さらば、私の一部

 麻酔が注射され、口の中に金具を突っ込まれる。麻酔が効いているせいか、歯が浮いていたせいか、あっけなく抜けてしまった。血止めのガーゼを噛みながら、20年以上も私を苦しめてきた元凶をまじまじと見つめる。

抜かれた奥歯
※抜かれた奥歯。グロかったのでモザイクをかけた。

 口の中に露出している部分は、ほとんど金属だった。ふだん意識しないが、私は金属で食べていたのか。さいわい、汚れていない。よかった。歯茎に埋まっていた部分に歯肉がついてない。歯が浮いていたせいだ。
 神経を抜いていたから、痛みを感じることはなかった。しかし血のめぐりが悪くなって、脆くなったわけだ。歯は金属で補強されていたが、歯を支える骨が弱くなるとは思わなかった。

「もっと歯磨きしていれば避けられたのですか?」
「うーん。一概には言えません」
「残った歯を大切にするためには、どうしたらいいですか?」
「特別なことはありません。歯磨きと、定期的な検診。あとは健康でいることです」
「わかりました」

 出血はすぐ止まった。麻酔も切れたが、痛みはない。いや、顎に違和感がある。歯を抜いた痛みか、炎症のせいか。「ロキソニン」という痛み止めをもらっているが、これはなるべく服用したくない。感染症を予防する「ケフレックス」だけ飲んでおこう。次の診察は一週間後だ。

もう悩まされない

 夜、鏡で口の中を見てみる。
 左の奥歯がなくなっていた。舌がふれないから、ないことはわかっていたけど、この目で見るとショックだ。歯はたくさんあるように思うが、1つでも欠けるとすぐわかる。
 右はあるのに、左がない。
 上はあるのに、下がない。
 あぁ、なくなってしまった。痛いときは「抜いてくれぇ!」と、のたうちまわった、あの奥歯が。

抜かれた奥歯
※ケースに入れてもらった

 これが歳をとると言うことか──。
 いや、みんながみんな40代で歯を失うわけじゃない。これは私の失敗だ。つまり20代のころ、歯を大切にしなかったツケを払っているのだ。くそっ!

 残った歯を大切にしよう。本当の、本当に。

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