3Dプリンタはどんな未来をもたらすのか

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3Dプリンタはどんな未来をもたらすのか

 2012年は3Dプリンタに関するニュースをよく見かけた。

 このあいだまで研究所の実験器具だったのに、もう実用段階になったのか。まだ使える分野は狭いし、コストも高い。中国に発注した方が安上がりになるそうだ。しかし私たちはパソコンやネットワークの爆発的な普及を目撃している。3Dプリンタなんて普及しない、と言えるだろうか?

3Dプリンタとは

 3Dプリンタは平面の紙ではなく、三次元の立体物を出力する装置。粘土を盛っていくような方式(積層造形法)によるものを3Dプリンタ、石から彫刻を削り出すような方式(切削造形法)を3Dプロッタと呼ぶ。

 どちらも設計図や3Dデータから直接出力できる。つまり「金型」を必要としない。
 そのため、ワンオフのパーツ制作に向いている。たとえば、試作品を出力して動作を確認したり、建物を縮小出力して強度計算したり。映画『007 スカイフォール』で爆破された往年の名車(アストンマーチンDB5)は、3Dプリンタで出力されたレプリカだったらしい。
 データさえあればどこでも出力できるのも魅力だ。ごくまれにしか使わない道具や部品は所有せず、必要に応じて出力すればいい。3Dプリンタが宇宙ステーションにあったら、どれほど便利になるか。
 これほどの可能性を秘めたデバイスが発展しないわけがない。

3Dプリンタ

3Dプロッタ(CNC)

3D Scan & CNC

「金型」の価値が暴落しそう

 なんでもコピーされるIT業界にいると、コピーできない「金型」を有する製造業がうらやましく思えることがある。しかし3Dスキャナが普及したら、事態は一変する。製品が簡単にスキャンされ、コピーされてしまうからだ。
 なんでも3Dプリンタで作れるわけじゃないし、大量生産にも向いてない。しかしたとえばフィギュアのように均質な素材で作られ、希少価値がつくものは、たやすく「違法コピー」されてしまうだろう。「金型」によって守られていたものは大きい。

 まぁ、映画やゲームは違法コピーが出回っても、業界がつぶれることはなかった。3Dプリンタによって壊滅的なダメージを受けるメーカーもあれば、飛躍するメーカーもあるはず。どれほどの激震が襲うのか、現時点で予測するのは難しい。ひとつ言えることは、新しいものを作れる人の価値が高まるだろうってことだ。

無限の在庫を秘めた百貨店ができそう

 3Dプリンタを各家庭に配備する必要はない。帆風やKinko'sのような出力センターがあれば十分だからだ。「3D出力センター」は、無限の在庫を秘めた百貨店になる。データがあればなんでも作れるし、データはネットで入手できるからだ。
 こんな店ができたら、量販店や物流は大打撃を受けるだろう。いま、ネット通販が量販店を圧倒しているが、3D出力センターはネット通販を圧倒するかもしれない。

メーカーと消費者の区別がなくなりそう

 便利な道具を発明しても、製造や流通、販売のチャンネルがなければ商売にならなかった。しかし3Dプリンタがあれば、アイデアだけでメーカーになれる。たくさん作って単価を下げる努力や、在庫をコントロールする必要もない。アイデアだけで勝負できる。

 こうなると、メーカーと消費者の区別がなくなるかもしれない。消費者はいちいちメーカーに要望を伝えずとも、自分で改良(カスタマイズ)すればいいのだから。
 やがて設計工程もオープンソース化され、みんなでアイデアを練り上げ、みんなで共有する文化が根付くだろう。ニコニコ動画が、番組の制作者と視聴者の区別をなくしてしまったように、みんながメーカーになってしまうのだ。

 その一方で、卓越したアイデアマンに寄りかかっていただけの人は、居場所を失うだろう。工程は省かれ、仕事を失う人も多いだろうが、社会が効率化することで、少ないエネルギーで暮らせるようになる。そして現在も兆候はあるが、無償でデータ提供する人が出てくれば、データの権利で儲けることは難しくなる。
 経済成長はないが、必要なものは手に入る。
 それがどういう世の中なのか、2013年に生きる私は想像できないが、すごい未来が待っていそうな気がする。