グラフ理論で考える運命の乗り換え
2013年 科技 思考実験N氏と飲んだとき、グラフ理論の話をした。
N氏は先日、グラフ理論を用いたデータベース「Neo4j」の講習会に参加して、いろいろ刺激を受けたらしい。ぶっちゃけ、私には興味のない分野だったけど、話を聞いているうち「SF的な可能性」に興奮しはじめた。
聞いたこと、想像したことをメモしておく。専門外なので誤解や曲解はあるかもしれないが、まぁ、いつもの妄想話と思ってほしい。
つながり方を検索する
グラフ理論(Graph theory)相互の「つながり方」に注目した数学の分野。
たとえば路線図は、駅の実際の大きさや、線路の長さや曲線は無視され、駅と駅のつながり方だけが抜き出されている。このような点(ノード)とそれを結ぶ線(エッジ)を抽象化したものが「グラフ」である。
グラフ理論を応用したデータベースをNoSQL (Not only SQL)と呼ぶ。その名が示すように、従来のリレーショナルデータベース管理システム (RDBMS)でできなかった処理ができるようになる。
たとえば駅から駅への最短ルートを検索するとき、RDBMSは乗り換えの可能性すべてを網羅しなければならないが、NoSQLはつながり方だけ追うため早く結果を出せる。
NoSQLは、路線図や電子回路、World Wide Webの構造解析などに応用できる。
人間関係に応用できるか?
NoSQLで人間と人間の「つながり方」を処理させたらどうなるだろう?
それがN氏の着眼点だった。
従来のアドレス帳は個々の属性だけをデータベース化していたが、相互の関係性をヒアリングすれば、これまでにない検索やシミュレーションが可能になるはず。
噂話はどう伝わっていくか?
だれが仕事を止めているのか?
あるいは勝利の鍵はだれか?
人間関係は複雑怪奇で、仕事をしていなさそうな人が重鎮だったり、がんばっているように見える人がノイズをまき散らしていることがある。うまくいっている仕事では、「おれが調整している」と主張する人は多いが、真偽は検証しづらい。
NoSQLを使っても、情報収集の段階で屈折する可能性はあるが、まぁ、ビッグデータの解析などで成功したと仮定すると、おもしろい可能性が見てくる。
神秘のベールが明かされる
現実は「人間関係は路線図」がないため、とても使いにくい。
たとえば仕事で問題を見つけたとき、組織図どおりに上司に報告しても意味がないことがある。上司という「駅」は混線していることが多いからだ。
「そういうときは○×さんに言うと早いよ」
(そういうときは○×駅で乗り換えた方が早いよ)
という現場の知恵が、データベースによって明らかにされるわけだ。
今ある路線図を活用するだけじゃない。だれを昇進させ、だれを解雇すれば、よりよい路線図が作れるか、あれこれシミュレーションできる。これまで人事部や雇用者が直感的にやっていたことを、数学的に処理できる。これはすごいかも。
複雑な人間関係は、じつは無能な人を守るベールかもしれない。路線図が解析されれば、使いにくい「駅」は排除されるからだ。
ネット世論も解析できる?
TwitterやFacebookの利用状況を解析すれば、世論形成に影響力のある結節点を見つけられるかもしれない。もちろん、フォロワー数が多いほど影響力は高くなるが、そういう人に引用されやすい人もいるだろうし、炎上することで反対意見が強まることもある。
たとえば、ある政治家を当選させたいとき、逆に落選させたいとき、だれが話題にすると広く伝播するか。そうしたことも解析できるだろう。
現実の話
そういえば、米政府当局が「PRISM(プリズム)」というシステムを運用して、市民の通話記録やメール通信などの大量のデータを収集・監視していることが明らかになった。ねらいは通話を盗聴することではなく、相互の関係性を把握することと思われる。
選挙に介入できれば、PRISMに反対する議員を落とすこともできるから、無敵になる。
そういえば、新聞各紙は当初、アメリカを断罪し、暴露したスノーデン氏を英雄視していたが、あるときから論調が一変した。PRISM は必要かつ合法で、スノーデン氏はテロリストに利する裏切り者と批判されている。
なぜ論調が一変したのか? 考えてみると怖い。
グラフ理論の話からだいぶ外れてしまったけど、考えてみるとおもしろい。技術がもたらす変化は想像を絶するかもしれない。