ソイレント・ネイティブを想像してみる

2013年 哲学 食事
ソイレント・ネイティブを想像してみる

 SF映画『ソイレント・グリーン』(1973)にこんなシーンがある。

 資源が枯渇した未来。人々はソイレントという合成食品を食べて暮らしていた。天然食品は宝石のような貴重品で、一部の富豪しか口にできない。
 ソーン刑事は、ふとしたことで牛肉、レタス、豆などを手にいれる。相棒の老人に調理してもらった「ふつうの食事」はかつて経験したことがないほど美味で、感激して泣いてしまう。

 映画を見てて思ったんだけど、長いこと合成食品しか食べてなかった人は、天然食品にあこがれたり、食べて興奮することはないんじゃないか?
 まぁ、ソーン刑事は若いころに天然食品を食べているかもしれないが、生まれたときからソイレントしか食べてない世代──ソイレント・ネイティブ──がいるはず。彼らは「食事」という行為や文化をどう見るだろう?

 私たちは食事で多様な色や香り、味、食感、あるいは団欒の時間を楽しんでいるが、それは生まれつきの感覚ではなく、「食育」によって獲得したものだろう。ソイレント・ネイティブが、コーヒーの香りを楽しんだり、肉を焼く音に興奮するとは思えない。むしろ非効率な栄養摂取に執着する人々を不思議に思うんじゃないかな。
 あぁ、そういえば同じようなセリフを『さよなら銀河鉄道999 アンドロメダ終着駅』(1981)のメタルメナが言ってな。『冷食捜査官』(2008)でも取り上げられたテーマだった。

 デジタル・ネイティブ(生まれたときからIT環境がある世代)は、「紙の本を読むほうが勉強になる」とか「ネットで知り合った人と合うのは危険だ」なんて言われても首を傾げるだろう。私たちデジタル・イミグラント(ある程度の年齢になってからIT環境に順応した世代)は、古い世代の気持ちもわかるけど、非効率であることは認めている。

 大量生産や冷凍技術によって、私たちの食事はだいぶ効率化された。それを「味気ない」とか「まちがっている」なんて言われても首を傾げるだろう。私たちは必要十分な食事を、より安価に、安全に、手軽に楽しんでいる。非効率な習慣はなくなくなって困らないよ。
 いつかソイレント・ネイティブが台頭してきても、同じように言うんだろうな。

 食事の楽しみは例外だろうか?

 これだけは特別、と思うものがどんどん消えていくのが歴史なんだよね。

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