COOPで「パニックになる自分」と出会う / Left 4 Dead 2

2014年 娯楽
COOPで「パニックになる自分」と出会う / Left 4 Dead 2

 『Left 4 Dead 2』をプレイすると、自分がけっこうパニックになることがわかった。

 パニックと言っても、映画のように絶叫したり、マウスを投げちゃうわけじゃない。1つの行動に集中して、ほかのことが目に入らなくなるのだ。

 たとえば、ゾンビの大群が押し寄せてきたら、一も二もなく撃退するよね。
 撃って、撃って、撃ちまくり、狙いをつけ、できればヘッドショットで、銃弾の残りが、リロードのタイミングで、間に合わないから殴って距離をとり、弾丸が足りないから斧に持ち替えて、斬って、斬って、ピルを飲んで、少しでも時間があればピルを飲み、さらに余裕があればライフパックで治療したいが、そのためにもゾンビをやっつけて、やっつけて、やっつけて......。

 気が付くと、ヘリコプターが私を置いて去っていく。上空から仲間たちの声が響く。

「ばかっ! 撤収って言ってるじゃないか!」

 ゾンビと戦うことは目的じゃない。ヘリコプターが到着するまでの時間稼ぎだったはず。しかし戦うことで頭がいっぱいになり、周囲が見えなくなっていた。そんな感じ。

聞こえないわけじゃない

 仲間たちの声が聞こえてなかったわけじゃない。
 死んで落ち着くと、キャッシュを読み込める。えぇと、なんだっけ?

(おいっ、ロシェルを助けてやれ!)
(聞こえてないのか?)
(体力やばいよ、いったん下がって)
(おい、下がれって)
(ヘリが来た。撤収!)
(撤収だよ、撤収! 早く)
(ダメだ。見えてないし、聞こえてない)
(おーい、ヘリが出るよ)
(さーよーなーらー)

 ふむ。声は聞こえていた。しかし、わかってなかった。
 ゾンビ退治で頭がいっぱいになり、割り込みできなかった。

割り込みを処理できない

 コンピュータは指示された順序で仕事を処理するが、優先度の高い仕事が来たら、いまやってる仕事を中断して、先に処理するよう設計されている。これを「割り込み」と言う。

 たとえば編み物をしているときスマートフォンが鳴れば、手を止めて応答するだろう。編み物がすべて終わるまで電話に出ない、という人はいない。ここまでは簡単だ。

 手を伸ばすとカップを倒し、コーヒーが膝にこぼれてしまった。「編み物する」と「電話に出る」は中断して、カップを戻したり、被害を食い止めるといった後始末をするだろう。しかしズボンを脱いで、洗濯が終わるまで、「電話に出る」を保留することはない。

 「今やらなくちゃいけないこと」と「後回しにしてもいいこと」の判断ができれば、大した問題じゃない。しかし多くの人は共感してくれると思うが、余裕がなくなると、優先度を比較できなくなる。つまり、パニックになる。

 ズボンを脱いだら、電話じゃなくてインターホンだと気づく。宅配便が届いたようだ。なにか履くものをとクローゼットを開けたら、不審者が潜んでいた。外から爆発音が響き、火星人が襲来したと声がする。猫が二本足で立って、タバコに火をつけた。ふと、晩飯のため冷凍したお肉を自然解凍しなくちゃいけないことを思い出した。
 どうだろう? 編み物したくなりませんか?

 ひたすらゾンビと戦っていると、それ以外のことは無視される。仲間たちの声は聞こえていたが、運転中のラジオより聞いてなかった。

没入のコントロール

 私は難しい仕事を、集中することで突破してきた。現実の仕事も果てがないと思われたが、『L4D2』のゾンビ退治は本当に果てがない。無限に沸くからだ。だからゾンビとの戦いに集中しても意味がない。絶対に乗り越えられないからだ。

 そんなこたぁ、わかってる。

 わかっているけど、つい、やってしまうのだ。ゾンビとの戦いには独特のリズムがあって、つい、集中しちゃうんだよ。

 仲間2人は重度のゲーマーなので、割り込み処理がうまい。彼らの視点(画面)から見ると、ゾンビ退治に夢中になった私は、パニックというか、没入というか、割り込み処理ができないというか、なにを言っても聞こえなくなる。

「なんでパニックになるのかなぁ。理解できないよ」
「くそっ!」

 ゲームが上手になりたいとは思わないが、割り込み処理は上手になりたい。

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