奪って、与えるF2P(Free-to-Play)の掟
2015年 娯楽 iPhone ゲーム
久しぶりにあった友人と話をしてると、いきなりスマホゲームで遊びはじめた。
会話に退屈したわけじゃなく、パズドラのポイント消化の刻限になったらしい。
知らない人は知らないが、パズドラなどの基本無料(F2P)ゲームは、一定時間ごとに回復するポイント分しか遊べない。ポイントを無駄にしないため、ちょくちょく起動しなければならない。就寝中と仕事中は無理だから、移動中や、トイレ中、食事中、あるいは私のように怒らない友人の前なら、ささっと消化しちゃうわけだ。
「スマホゲームは時間と場所を選ばらないからいいよな」
と言うが、むしろオン/オフを切り替えられないのは厄介に思えた。
その友人から、基本無料ゲームの仕組みをあれこれ教わった。
希少な課金ユーザーの確保するために
F2P(Free-to-Play)は、無料でプレイできるゲームのこと。フリーゲームも含むが、多くは課金システムをもち、アイテム課金などで利益を得ている。
ユーザー総数に対して、課金ユーザーはごくわずかだが、支払う金額は大きい。たとえば500万で開発したゲームを無料配布しても、10,000人がダウンロードして、1,000人が起動して、100人が遊んで、5人が500万課金してくれればペイする。
「無料で遊べるゲームに、そこまでカネを払う異常者がいるのか?」
「いる。
異常者はつねに一定の割合で存在する。
より多くの異常者を見つけるためには、ユーザーの総数を増やせばいい。
異常者が1万分の1なら、1000万ダウンロードで1,000人確保できる。
すると収益は1,000倍だ」
「ひええ」
「カネを払わない9,999人より、カネを払う1人を満足させることが重要だ。
しかしユーザー総数が減ったら、課金ユーザーも去ってしまう。
課金ユーザーは、非課金ユーザーがいないと発生しない。
言い換えるなら、貧しい人がたくさんいないと、無駄遣いしないのだ」
「ひええ」
「よってF2Pゲームは非課金ユーザーを多く、長く、ずぶずぶ楽しませようと工夫する」
「ひええ」
奪って、与える
友人の分析によると、F2Pのキモは「奪って、与える」ことにあるそうだ。
まずプレイ時間の決定権が奪われる。先に述べたとおり、F2Pゲームはスタミナ、燃料、指揮力など、消費されるポイント分しか遊べない。待つか、買うしかない。おのずと一回のプレイが貴重になり、無駄にできなくなる。
「好きなとき、好きなだけプレイできない」ということは、
「毎日ちょっとずつ、やりたくなくてもプレイするしかない」ということらしい。
F2Pゲームの序盤はサクサク進むが、難しくなるころポイントが足りなくなって、待たされる。貴重なプレイ時間で失敗すれば悔しさ倍増だし、クリアできればうれしさ倍増だ。パワーアップやアイテムといった報酬をもらえて、スムースにクリアできるようになる。
これが快楽中枢を刺激する。
さらに熱心に待つ人には、特別なご褒美が与えられる。ゲリラ的に発生するイベントは、ちょくちょく起動する人しか得られない。これが優越感をあおる。
「自動販売機を監視してると、ぽろりと缶ジュースが出てくるようなものだ。
缶ジュースが欲しくなくても、なんだかうれしい。
だから監視をつづける」
「ひええ」
「ほどなく、監視をサポートする道具が出てきて、ますますうれしい」
「ひええ」
ぬるい支配
コンプガチャが社会問題になったのは2012年。あのころは提供者たちも不慣れて、つい、やりすぎてしまったが、今はだいぶ学習したそうだ。
未成年はカモにしやすいが、リスクが高い。理性ある大人は引っかからない。よって成人したての、分別のない20代前半。および、そのころの精神年齢を引きずっている大人たち──アニメやアイドル好きな連中──をターゲットにする......らしい。
たしかに、仕事や育児に忙しい人は、無料ゲームに割ける時間はないだろう。
「正直いえば、おれは課金システムの進化に詳しくない。
おれは課金ユーザーを楽しませる背景。
枯れ木の1本だから」
そこまで話すと、友人はもう1つiPhoneを取り出して、パズドラをはじめた。
「時間だから、こっちも消化しておく」
「それはなんだ?」
「嫁のiPhoneだ。今日は忙しいから、代わりに消化してる」
「いま奥さんに電話すると、それが鳴るのか?」
「今日は通話不可だな。
それで困ることもない。
うちは夫婦の生活時間帯がずれてるから、相互に助けあってるんだ」
「ひええ」
「そ、そこまでカラクリがわかっていながら、なお術中に落ちるのか?」
「麻薬の知識があっても、抵抗できるわけじゃない」
「ひええ」