機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島 MOBILE SUIT GUNDAM Cucuruz Doan's Island

2022年 アニメ 2ツ星 #ガンダム 主人公は軍人

オリジナルより後退した。

機動戦士ガンダム劇場版が公開されたとき、『ククルス・ドアンの島』がカットされたことを嘆くファンは多かった。それだけ印象深いエピソードだった。「ガンダムに詳しい人はドアンを語る」といった風潮もあった。

大人になって再視聴すると、子どもたちの残酷さに驚く。連邦兵士を衰弱死させ、少年アムロにも躊躇なく石を投げる。ドアンは、親を殺してしまった贖罪として子どもたちを育てていると言うが、こんな島で原始生活をする説明にならない。自分だけの楽園に逃げ込んでいるのではないか?
アムロは「戦争の匂いを消す」といってドアンのザクを海に投げ捨てる。しかしザクがあるから攻撃されるわけじゃない。連邦であれジオンであれ、軍隊が上陸してきたら自衛できない。それでいいのか?

とはいえ、少年アムロの考えはわかる。
アムロは最後まで戦う理由を見いだせなかった。愛するものがいないのに最強なのは「不自然」であると、ララアに指摘された。物語は、アムロが武器(コアファイター)を捨てるところで幕を閉じる。戦う理由がなくっていい。アムロは自分から戦争の匂いを消したのだ。

しかしアムロはスポンサーと大衆によって戦場に引き戻された。『ゼータ』は巻き込まれて、やむを得ずと言えなくもないが、『逆襲のシャア』では職業軍人になっている。
つまるところ、武器を捨てても戦争の匂いは消せなかったわけだ。
ま、だとしても、少年アムロの判断を否定することはできない。あの時点では正しかった。

なぜリメイクしたのか

さて、そんな「ククルス・ドアンの島」が43年を経て映画化されると聞いて、期待しないガンダムファンはいないだろう。テレビシリーズより踏み込んでくれるのか? 解脱できなかったアムロを揶揄するメタ的なメッセージもあるか? まぁ、最新技術で再現してくれるだけでもいっか。などなど、はやる気持ちを鎮めるのも一苦労だった。

どうだったかというと、映像はすごかった。モビルスーツがよく動く。アムロとカイの声がうれしい。なつかしのメンバーが揃っていた。オリジナルの旋律も震えた。

物語は、オリジナルより後退している。
ドアンの島には、マ・クベの切り札があった。そんなところにドアンが居座るのは不自然だろ。ドアンの仲間たちが出てきても、ドアンの人柄は描かれない。ただのモブだ。アムロと子どもたちの交流もステレオタイプで、なんの疑問も提示されない。そしてラストはオリジナルと同じ。リスペクトというより、意味がわからずなぞっている感じ。踏み込まないなら、なぜ映画化したのか?

アムロのガンダムが崩れる崖でバランスを保つため、ライフルを捨てた判断は素晴らしかった。まぁ、徒手のドアンと戦うためのハンデ調整だけど、よい段取りだった。
ドアンはジオンマグを使っていた。物資がないから仕方なく使っているなら、「マークを消した痕がある」くらいの演出がほしい。
ホワイトベースの仲間たちを結集しながら、最後はなんの出番もない。ガンダムの物語を考えると、「仲がいい」「慣れてきた」と描くだけじゃ片手落ちだろう。そもそもガンダムを放棄して発進できるはずもない。ブライトさんの采配も物足りない。

映像体験は数年で色褪せる。
作ってくれたのはうれしいが、コレジャナイ。

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